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光はいつだって酷く遠くにあるということ

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眠れない夜はもう何度目なんだろう。こんな夜は、外をぶらつくに限る。こっそり窓から抜け出して、近所の河原へ急ぐ。途中でコンビニ寄って行こう。おしたりが好きだった冷たいレモンティーを飲んで、夜中の河原の冷たい草に倒れこもう。草のあおい匂いに包まれて、まっくらな空に浮かぶ星を眺めたら、そしたらまた眠れるかな。いつもみたいに目を閉じて、おれはおしたりに会いたい。



さっき不良に絡まれた。夜中のコンビニでたまってるなんて暇人だ。おれに絡んでくるなんて、もっともっと暇人だ。宍戸風に言うと激ダサだ。まっきんに染めたこの髪は、どうやらあいつらの敵意を一心に受けてしまうらしい。前におしたりに「あんたなあ、敵増やしたないんやったら、その髪やめたほうがええよ。部活もやれんなるで」と言われたことを思い出す。困ったふうの顔をつくってたけど、おしたりが本当はそんなことどうでもよく思ってることをおれはしっていた。だからおれは適当に、ウンとかアーとか言っておいた。大体おしたりはいつでもおれのことなんかには興味がなかった。ただ、まわりとのあいだに波風がたたないように適当にそれっぽく振舞っているだけだ。おれはおしたりのそんなところがきらいだった。

そんなことを思い出したら無性に腹が立ってきたので、絡んできた不良の言葉は最後まで聞かずにとりあえずそいつの顔面を殴ってみた。そしたら殴り返してきたのでさらに殴り返した。そうしているうちにおれは傷だらけになった。不良も傷だらけになった。でもおれはひとりだったのでそいつよりよっぽど傷だらけだった。ばかみたいだなと思った。おしたりの顔が浮かんで「あほやろ」と言ってため息をつくのが見えた。おしたりはおれが傷をつくって帰るといつもそうやってわざとらしくため息をついておれをばかにするみたいな顔をした。そのくせ何故かいつもおれの傷の手当てをしてくれた。時々わざと乱暴にしたりなんかして、怒ったふりをしながら。おれはおしたりのその怒った顔がすきだった。だからことあるごとにわざと傷をつくって帰った。そのたびにおしたりは、ため息をついて怒ったふりをした。おれはおしたりのそんなところがすきだった。

手当てが終わったら、「こんくらいはしてもらわな、わりに合わへんて」と言いながら、おしたりはいつもおれにレモンティーを奢らせた。帰り道で、いっしょに並んで歩きながら、それを美味しそうに飲み干すおしたりに、おれはいつだったか「レモンティーなんか美味しい?」と聞いた。おしたりは「美味しいよ。じろーも飲む?」と言っておれに飲みかけのレモンティーを差し出した。受け取ってごくりとひとくち飲んだレモンティーはにがくてすっぱくて、おれのきもちみたいだった。「美味しいやろ?」と聞いてくるおしたりにおれは「まずい」と答えて舌を出した。おれの突き返したレモンティーを受け取ってもういちどごくりと飲みながら、「美味しいのに」とおしたりは残念そうな顔をした。それ以来おれは、レモンティーを見るたびおしたりを思い出す。レモンティーは、にがくてすっぱい、おしたりの味だ。


不良がコンビニに入れてくれないので、しかたなくおれはまわれみぎをして河原へ行くことにした。途中見つけた自動販売機でレモンティーを買う。冷たいそれの表面から、どんどん水が浮かんで流れて、まるで泣いているみたいだった。レモンティーをひとくち飲む。にがさもすっぱさもはじめて飲んだあのときとまるで変わらなくて、おれは少し泣きそうになる。自分のあまりのセンチメンタルに笑う。おしたりみたいだ。おしたりはいつも必要以上にロマンチストで乙女チックだった。そんなおしたりは、もうおれのとなりにいない。どこか遠くへ帰ってしまった。思えばいつも、おしたりはどこか遠くを見つめていた。まるでおとぎ話のかぐや姫のようだった。おしたりはもう戻っては来ない。もう手は届かない。おしたりは今、おれのしらないところにいる。

ねぇおしたり、おれはおしたりの、なにもかもしったようなふりで勝手に諦めて勝手にどっか行っちゃうところがきらいだった。おれのことなんかどうでもいいみたいに、適当にあしらうおしたりがきらいだった。おれはおしたりのとなりにいるのに、おれのことなんか見えてないみたいに振舞うおしたりがきらいだった。おしたりがきらいだった。でもその分余計におしたりがすきだった。だからもういちど会いたいよ。ねぇおしたり、そんなふうに言ったら、おしたりはいったいどんな顔をするんだろう。いつもみたいに困った顔をするのかな。何言ってんねん、て呆れたように言うのかな。それとも怒ったふりをするのかな。やさしく笑って、おれの頭を撫でるのかな。撫でてよ。もういちど、今度はちゃんと、おれの顔を見ておれに触ってよ。そうしたらおれはまたちゃんと、ひとりでも眠れるから。



河原について、おれは冷たい草の中に倒れこむ。あおい草の匂いに包まれる。そうしてまっくらな空に浮かぶ星を眺める。空がとても近くて、おれは押し潰されそうになる。ねぇ、ねぇおしたり、どんなに星が光っても、ここにレモンティーがあっても、おれは眠れない。眠れないよ。おしたりがいないと眠れない。涙がまぶたに収まりきらずに、すうと横に流れていく。ねぇ、だから帰ってきて。早く早く、光よりも早くさ。何億光年も向こうの星がおれの瞳に光るよりも先に、おれはおしたりに会いたい。