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What should I say?

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――――ピピピピ、ピピピピ。
短い電子音の後に、液晶画面に御剣の体温が表示される。‥‥38度7分。低体温の御剣にしてみれば、かなりの高熱だ。
「ほらな!」
ソファーに座りながら体温を測る御剣を隣で除き込んでいた成歩堂が得意気に言う。
「だから、言っただろ。御剣、妙に顔が紅いと思ったんだよ。」
御剣のことならば何でもお見通しだ、とでも言わんばかりの口調にスナオになれない言葉が先行する。
「‥‥自分のことくらい、自分が一番良く分かっているつもりだが?」
「意地張ってたくせに。」
成歩堂の言葉に御剣は小さくため息をつく。
‥‥意地を張っていたのではなく、キミに心配をかけたくなかったんだ、といってのけるには二人のカンケイは、まだ早い。
「‥‥まあ、そういうことだから、今日はもう寝る。キミもうつると悪いから、早く帰りたまえ。」
右手で軽く成歩堂を遠ざけるような仕草をしてベッドに向かおうと立ち上がると、成歩堂はその右手をギュッと掴んで、引っ張った。熱で力の入らない足は、当然バランスを修正できない。
「‥‥‥‥ッ!」
仕方がなく、ソファーに倒れ込むと、成歩堂の顔が目の前にあった。
「こんな状態のキミを、ぼくが置いていくと思ってるの?」
耳にかかる吐息が残す甘い痺れに、思わず自分のものとは思えない高い嬌声があがる。
「やっ‥‥め‥‥な、なる‥‥ッ!」
一瞬にして、成歩堂の表情が見たこともないものに変わった。いつも、見慣れた友人としての表情ではなく、男としての表情、だ。一瞬、成歩堂の目にナニかの感情がゆらめくのが、見えた。
(マズイ‥‥。)
ここで、友情という一線を超えるのは、非常にマズイ。そんな焦りを感じたが、瞬間後には成歩堂の表情はいつものものに戻っていた。
「‥‥あんまり、可愛い声出すと、襲っちゃうぞ?」
冗談とも本気ともつかない発言。
御剣はふと、この間想いに駆られるままに成歩堂に口付けてしまったことを思い出した。顔が紅くなる。‥‥あの時、成歩堂は寝ている、と思っていたが、確証はない。
「成歩堂、その‥‥。」
「ぼくに押し倒されるなんて、御剣やっぱり、ちゃんと養生しないとダメだよ。ぼくが、看病する。‥‥良いよね?」
「‥‥私の許可など、必要ないだろう。」
――――どうせ、私にキミは止められないのだから。
あの時だって、そうだったように。
(メイワクだったか?)
メイワクもナニも、成歩堂は最初から私を弁護することを決めてきていたのだ。私が、嫌がるかそうでないかにはかかわらず。そして、そんなキミを、私は止めることはできない。
――――いつものことだ。彼に私の許可など必要ない。
「‥‥うつっても、知らないぞ?」
そんなことはないだろう、と御剣は思って、そんなことはどうでもいいだろう、と御剣は思った。
‥‥この熱は、インフルエンザ。この間、キミからうつされたものなのだから。


「とりあえず、着替えてから、寝ようね。」
御剣自身も理解しているようなことを説明する成歩堂。普通、スーツのままベッドに入る人間など、いない。成歩堂の前で着替えることを躊躇していると、彼は続けた。
「着替えさせてあげようか?」
「‥‥馬鹿か、キミは‥‥。」
着替えられないわけ無いだろう、と付け加えて、急いでボタンを外そうとするが、熱で目と指が機能しないためか、なかなか外れない。ひどく時間をかけてなんとか外すと、成歩堂が感嘆の声を上げた。
「おお!」
「‥‥なんだ。」
「いや、御剣って良い筋肉してるなぁ、って思ってさあ。鍛えてる?」
「‥‥特には。」
「やっぱりカッコいいよ、御剣。」
(‥‥馬鹿か、コイツは。)
段々答えるのが億劫になってきた。下半身もパジャマに着替えると、ベッドに潜り込む。
「じゃあ、成歩堂‥‥もう帰りたまえ。」
「え?キミが寝るまで待ってるよ。」
「‥‥‥‥。」
「だってキミも、そうしてくれただろ?」
ナニか言おうとする御剣を制して、成歩堂は言う。
「これでやっと借りを返せるな、御剣。」
「‥‥そんな借り、返してもらわなくても、良い。」
とはいえ、キミがいると緊張で眠れない、と言えるわけもなく、仕方がなく目をつぶった。
部屋の沈黙に身を任せて、そう長く経たないうちに、成歩堂の声がした。
「ねぇ、御剣。」
「‥‥うるさい。」
身体を起こして、キミは病人を安らかに眠らせることも出来ないのか、と言おうとした唇を塞がれる。
「‥‥!」
思わず、目を開いて見上げると目の前に成歩堂の顔があった。今、起きたことを理解して、一気に眠気が覚めていくのが分かる。体温がますます上がっていく。
「な、なななななナニをするッ!?」
御剣の顔を見ながら、成歩堂は楽しそうに言った。その表情は御剣の反応を楽しむかのようだ。
「だって、御剣が先にキスしてきたんじゃない。」
コイツは何のことを言っているのだろう、と逡巡して、この間、成歩堂を看病した時の話だ、と思い当たる。
「起きていた‥‥のか?」
「うん。‥‥ごめんね。」
「‥‥謝る、な。」
――――泣きたくなった。これでもう、終わりなのだ、何もかも。
「でも、今度キスする時は、寝てる時じゃなくて、ちゃんと起きてるときにしてほしいな。」
「‥‥今度?」
不意に、声をあげて笑いたくなった。同時に成歩堂を罵倒したくもなった。
「今度があると思っているのか、キミは。」
友人としての一線を越えた。そんな私をキミが傍に置いていてくれるだろうか。
‥‥そんなことはない。そして、そんなことはどうでもいい、とも思った。何故なら――――。
「もう、終わりじゃないか。」
「終わりじゃないよ。」
成歩堂はもう一度正面から御剣にキスをする。身体が反応して、一度だけ小さく震えた。やけに冷たくて柔らかい唇の感触が、気持ち良い。
「これが、始まりなんだ。」
――――始まり、だと?何の、始まりだというんだ?
「ねえ、御剣。」
成歩堂は御剣を焦らすように、ゆっくりと言葉を紡ぐ。御剣の身体を侵食する、あの甘苦しい声で。
「キミは、ぼくのこと、どう思ってるの?」
作品名:What should I say? 作家名:ゆず