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それは、ほんの些細な

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眩しい光が、瞼を通過して世界を白く染める。うっすら目を開けながら、あたたかい、と感じ、そのことにひどく幸せな気分になる。
一瞬白く染め抜かれた世界は、徐々に色彩を取り戻し、やがて小さな部屋になった。

ふい、と横を向けば、なんとも腑抜けた、ほんわりとした顔で、自分よりはるかに線が細い青年が、すぴすぴと寝息をたてていた。

…また勝手に人の布団に入り込んだな。起きたらまた説教か。まったく…仕方の無い。
深くため息をつきながらも、困ったように、しかし満ち足りた笑みを浮かべる。

こういう風に、穏やかに朝を向かえ、こんなにものんびりとした空気の中で目を覚ます生活ができるようになったのは、つい最近の話。
人間の方には戦争を「知らない」という幸せな世代が生まれ、はみるみる成長し、いつしか子供ができていた。彼の上司にも、もう戦争をその身で体験した者はほとんどいなくなった。

ただ、どれだけこの状態が続こうと、俺たちだけはいつまでもソレを覚えているだろう。
俺を睨んだ瀕死のフェリクスを、
俺を罵りながらも、悲しそうに苦しそうに顔を歪めたフランシスを、
この世から零れ落ちる寸前だった兄を、
血を吐いて倒れる菊を、
もう戦いたくないと、殺したくないと、大量の涙を流したこいつの顔を、震える声を、傷だらけの体を、忘れるなんて、できるはずがない。

せめて、大切な人が、笑ってすごせる世界を。

それは、とても小さな祈り。
それは、ささやかなこと。
しかし、同時にそれはとても難しい願いだということも、彼は知っていた。

…人間が少しは学習していることを期待するしかないか。

彼はベッドから抜け出した。
隣で幸福な眠りに沈んでいる大切な青年を起こさないようにそっと。彼が喜びそうな朝食のメニューを考えながら。
作品名:それは、ほんの些細な 作家名:れいん