【パラレル】Patisserie Shizzu
参戦決定:竜ヶ峰帝人の場合 2010.07.30up
カランカラン
日本の店にしては少し高めの扉を開けると、ドアベルが揺れた。
よく乳牛なんかが付けているのと同じような音だ。
見れば、ドアにぶらさげっているのはカウベルそのものだ。
珍しいな、と扉をくぐった黒髪の少年は揺れるカウベルを見つめた。
「いらっしゃい」
無愛想な声にベルから目を離すと、コックスーツの青年がひとりショーケースの向こうに立っていた。
金髪に長身。
服の上からでも分かるすらりと伸びた手足。
それから、濃紺のサングラス。
およそ接客をするような容姿ではない。
一見すると、ホストか何かそっち系に見える店員である。
「今、テイクアウトだけなんだけどよ」
「あ、あの表の張り紙を見たんですけど…っ!」
少しだけすまなそうに告げてきた青年の言葉を少年はあわてて遮った。
張り紙の言葉に、青年は納得したように少年を見つめ返す。
「張り紙…?ああ…バイトの面接?」
「は、はい…っ!」
つっかえながら、少年が返事をようよう返した時だった。
「しっずおさーん!紀田正臣くん参上でーす!!」
カランカランカラン!
カウベルを勢い良く鳴らして一人の少年が登場する。
「紅茶のファーストフラッシュ貰ったんすよー、ってあれ帝人?」
「正臣!?」
手にしていた小さな紙袋を掲げていた少年は、先客に気付いて目を丸くした。
客人が見知った顔だったからだ。
呼ばれた方も驚いたのか、すっとんきょうな声を出した。
「なんだ、知り合いか?」
「っす、幼馴染でーす」
後から入ってきた茶髪の少年に店員が尋ねると、幼馴染で親友だと明瞭な答えが返される。
じゃあ、問題ないなとポツリと零された独り言に二人が首をかしげると青年は黒髪の少年に向き直って言い放った。
「じゃ、採用な。いつから来れる?」
「は、え、ええ!?」
「なに、帝人ここで働くの?」
「えっと、外のチラシを見て話だけ聞こうかなって思ったんだけど…え、えええー」
紀田の友達じゃ大丈夫だろ、と言うただそれだけの理由で少年…竜ヶ峰帝人のバイトは決定したのだった。
作品名:【パラレル】Patisserie Shizzu 作家名:Shina(科水でした)