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傷の舐めあいではないと2

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*ベルナルド


腕の中のその存在は世界が終わってしまうかのような悲しみの中にいた。おそらく。
その体は俺の腕の中なのに、心はここにない。
それでも体だけでも自分の腕の中に取り込めていることに歓喜していること。仲間たちが知ったら軽蔑されるのだろうなと思う。
ジュリオを失ったジャンの悲しみは端で見ていても異常なほどだった。
俺たち、他の仲間だって悲しんでいなかったわけではないのに。
ジャンの悲しみだけが一緒にいると部屋の中に濃密に満ちた。
そして理解した。
ジュリオとジャンが深い関係であったことを。
少し前から感じることはあったが、確定した。
もちろんそれを口にする人間はいない。
俺はジュリオの過去の話をしたときに。ジャンの言葉を聞いたから、ジャンの中でも俺がそれを認識していると理解しているんだろうと思う。
それはある意味甘味な秘密の共有だった。
俺が知っているということをジャンは知っている。
だからジャンは俺だけに話す。時々ぽつりと。
ジュリオのことを。
甘美で苦痛。
ジャンの唇がジュリオの名前を紡ぐとその唇が僅かに綻んだ。
深い深い悲しみの中にありながら、ジュリオの話をするときだけ表情が違う。
もちろん、頻繁に話など出なかったけれど、それでも仕事上で必要に迫られて名前が出るときがある。
その表情を独り占めすることが出来る喜びと、その心を未だジュリオが独占していることへの嫉妬。
仕事で弱った胃に、僅かに痛みが走る。
ジュリオは大切な仲間だった。
失った悲しみは俺だって深い。
なのに、どこかで嫉妬している俺がいる。そんな自分に嫌気が差しても、その事実を消すことは出来ない。
ジャンの全てを知った男。
その死によってこんなにもジャンを悲しませる男。
ジャンの心を奪っていった男。
けれど死んでしまった。

そしてジャンは、今俺の腕の中にいる。
そのことになにがしかの感情が浮かび上がってきそうで、無理矢理押さえつけた。
それは優越感のようなものだったかもしれない。
とても浅ましい愚かな思考だ。
ベッドの上で抱き合っているのに、何もしないと宣言するなんてイタリア男の名折れだろう。
それでも、俺が抱きしめた腕に抵抗することなく。
それどころか強く抱き返してきたジャンに、俺だって何も感じない訳じゃない。
それは性的なものではなく、その悲しみとともに覗き込んでいる暗い淵。
ずっと好ましいと思ってきた人間だ。
どこかの女とくっついて立派なカポになっていくジャンを見守っていくのだろうと思っていた。
それは正解だったのかもしれない。
が、そこにジュリオが。
俺はきっとジュリオがうらやましかったんだろうと思う。
俺が心のどこかで求めていたものを手に入れた。
あまつさえ手に入れたものを離さず、俺には手の届かないところまで持っていってしまった。
胸に去来するものは何だ。言葉にすることの出来ない複雑な感情。
ずしりと重いそれに占領された胸が、言葉を奪う。
腕の中の体が小さく震えた。
泣くな、と思う。
泣くな、ジャン。
悲しみに苦しむジャンを見ているのがつらかった。
ジャンの心がいつまでもジュリオに囚われていることを知る行為だと認識するのがつらかった。
そう思う自分の利己的な部分を見つけてしまうのがつらかった。
「ジャン・・・」
俺は顔を上げて、嗚咽を堪えるように涙を流すジャンの目元に口付ける。何度も、その涙を啜るように。
口の中に広がる涙の味に、その塩辛さに、思考の角がちり、と焦げる。
「うっ・・・」
涙で鼻が詰まって呼吸が出来ないのか、ジャンの唇が僅かに開かれている。
俺は頬に流れた涙の全てを味わうように、舌で舐め取っていく。
俺じゃダメか、という言葉は愚問なので飲み込んだ。
今のジャンにはその選択肢はない。ないことを知っているのに聞くことは拷問に近い。
俺にとってもジャンにとっても。
頬から耳の裏や首筋の方にまで流れている涙も舐め取っていく。
「ふ、あ・・・」
ジャンの声に嗚咽とは違う色合いのそれが混じる。
体の震えや声の色が変わる場所ばかりに舌を這わせていく。
「な、何も、しないって・・・」
涙に濡れているのに色の混じったジャンの声に欲情した。
「何もしないさ。涙を拭うのは側にいる人間の役目だろう?」
「嘘つきめ」
ジャンが小さく笑った。
そうだ、俺は今大層な嘘つきだ。
そしてそのことをジャンも知っている。

ジュリオの身代わりでいいから、なんてことは言わない。
ジュリオだと思って俺に抱かれろなんて言わない。

「少しだけ気持ちいいことをするだけさ」
だからジャンは後ろめたい気持ちになどならなくていい。
俺に流されてしまったのだと。
顔を上げて、ジャンの顔を、見る。
真っ直ぐに見ることが出来なくて、視線を僅かにずらしたら。
ジャンの視線も俺に真っ直ぐに向かっていないことに気づいて。
燻るような何かが体の奥に灯った。

作品名:傷の舐めあいではないと2 作家名:しの