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炎組エア・ギアログ(腐向け)

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大人気ないのは処世術(炎組)


※左 姑
 スピ 奥様
 カズ 嫁
 黒炎 奥さん
これで。全員が全員の嫁。



「――ッ!」

 バタン! と音も立てずに扉を閉められたのは奇跡に近い。
 詰めていた息を吐き出す余裕すらなく、葛馬は足早にその場を立ち去ろうとする。
 スピット・ファイアを探してリビングに立ち入ろうとした。
 僅かに開いていたドアの隙間から中の様子を伺えば、見覚えのある炎色の髪が見て取れたのだ。
 そして同時に聞こえてきたのは、聞き慣れた年上の男二人の掠れた声。葛馬にとっては耳に馴染みすぎた声だった。
 声と目の前の景色が重なる。
 スピット・ファイアが左の上に覆い被さり、焦れた顔で舌を絡めていた。
 少しでもあの部屋から離れたい。呼吸を落ち着けたい。そう思って目の前の部屋に飛び込んだ。

「こ……黒炎さん?」
「そんなに慌ててどうしたんです?」

 柔らかな声が葛馬の鼓膜を擽った。
 この家は四人で同棲しているのだから、どこかの部屋に黒炎がいても不思議ではない。
 黒炎がいた部屋に突然葛馬が飛び込んで来た、という言い方の方が適当だった。
 ふらふらと黒炎の側まで行くと、彼はぽんぽんと子供を宥めるように葛馬の背中を叩いた。ゆっくりとしたリズムに合わせ、ようやく葛馬は呼吸の仕方を思い出した。

「どうかしました?」

 葛馬の呼吸が落ち着いた頃、ゆっくりと黒炎が尋ねた。
 殊更大きく息を吸い込むと、葛馬は思い切ったように口を開いた。

「向こうの部屋で……スピと左が、その……二人で盛り上がって、た」

 勢いよく吸い込まれた息の割には葛馬の声は小さかった。
 ごにょごにょと不明瞭な声は、耳元で言われなければ聞き取れなかったに違いない。
 ああ、と嘆き混じりに黒炎は息を吐き出した。
 確かにこんな生活を送っていれば、事に及ぶこともそれなりにある。
 顔を真っ赤にして黒炎の肩口で唸る少年も、別に経験がない訳ではないのだ。
 件の二人のせいで今まで受け入れる女役しかやってこなかったものの、それこそこの年頃の他の少年に比べれば遥かに経験があるはずだ。
 うう、と唸って黒炎にしがみついてくる辺り、まだ初な子供なのだろう。葛馬が見たというリビングで盛り上がっていたという二人は、葛馬のこういうところが可愛くて仕方がないのかもしれない。
 黒炎はもう一度息を吐き出した。
 あの二人の捻くれ具合は長年の付き合いで分かり切っている。
 黒炎にはスピット・ファイアと左がわざわざリビングで事に及んでいた理由が手に取るように分かった。
 黒炎自身も葛馬に有りのまま伝えるつもりはない。そうすれば、唯一自分にだけは素直に甘えてくれるというのに、黒炎はその立場を失ってしまう。
 こうやって成長途中の薄い背中を撫でてやることも出来なくなるのだ。
 生温い愛情というのは与えるのも与えられるのも心地よい。黒炎はまだ、この心地よさを手放すつもりはなかった。
 あの二人のようにこの子供が真っ赤になっているのを見て楽しめるほど、自分はそこまで嗜虐心溢れる人間ではない。
 黒炎はまだ赤みの引かない葛馬と向かい合うと、努めて柔和に微笑んだ。

「なら、こちらもあちらに見せ付けてやりましょう」




「……スピット・ファイア」
「なに、左くん」

 つい先程まで濃厚な口付けを交わしていた者同士とは思えない乾いた声。
 ただし唇は互いの唾液で濡れ、そこだけが場の証拠だった。

「彼がこっちに気付くのは予想できていたでしょう」
「気付いてもらえるように仕向けたからね。ほら、僕と左君のキスに当てられて、カズ君もそういう気分になってくれないかなーって」

 呆れてものが言えない、とはまさに今の状況だ。何故自分は真昼間から宿敵とも言える男に唇を奪われなければならないのか。
 はあ、と左が明らか様に溜息を吐いても膝の上に跨がる男はカラカラと笑うばかりだ。
 だから厭味も込めて言ってやった。この天然気味の男が慌てふためく様を見たい一心で。

「まあ若い身体は正直ですから、貴方を待ち切れずに案外手短な相手と済ませてるかもしれませんね」

 左のそんな声がスピット・ファイアの鼓膜を震わせた、まさにその一拍後。
 可愛い可愛い子犬が一際甲高い声で鳴くのを、スピット・ファイアは確かに聞いた。


090623