鉄のラインバレルログまとめ(森次受中心)
「さっきから姉妹機とか、母と娘とか、なんで例えが全部女性なんですか?」
何となく、あのマキナ達を女性のように表現するのは違和感があった。どうしても機械というと男性的なイメージが強い。
「鬼とは本来、女性に例えられることが多い。正確に言えば、女性が鬼として表現されることが多い」
森次の答えを聞いて、早瀬は妙に納得した。機械としてのマキナではなく、鬼としてのマキナ。だから森次は女性で例えたのだろう。
「マキナの語呂も、オンナからきているような気がする、と道明寺君の報告書にあったな」
早瀬がページをめくると、確かに書いてある。音が転じる流れも考察されてあり、早瀬は素直に感心するしかない。
「ラインバレルが赤鬼をモデルにしているならば、それをモデルにするヴァーダントは同じ鬼──つまり青鬼を模した。ラインバレルを鬼と見るには、様々な外見的特徴もあるが……やはり鬼火だろうな」
それは先程森次が唐突に言った言葉だった。民話・神話に疎い早瀬でも、鬼火は知っている。心霊番組等で画面に映る光源体──あれを鬼火と言っていた霊能者がいた。あの光源体の色は何色だったか。
「……あ」
「気付いたか」
「でもあれ、暗視カメラの映像だし……」
そう言ってみたものの、早瀬の頭にはそれを肯定する力強い確証はない。
人魂と呼ばれるものは何色だったか。夏に店先に並ぶ肝試し用の商品の色は、なぜあの色なのだろうか。
「エグゼキューター……」
「私も道明寺君も、あれが鬼火なのではないかと考えている」
早瀬がまだラインバレルが何物であるか知らなかった頃、親友である矢島が死んでしまったあの時、力に任せエグゼキューターを出力最大でしようしたことがある。海をも割ったあの光は、確かにこの世のものとは思えなかった。
そこからしばらく、森次は口を開かなかった。早瀬が報告書を読み終えるのを、黙ってじっと待っている。
最終ページまで目を通し、紙を返して表紙へ。今度は叩き付けることなく自然に置いた。
「もっとも私は、あの二機を鬼とする理由は他にあると思っている」
「え?」
道明寺の報告書を隅々まで読んだが、どれも悔しいほど納得せざるを得ない説得力を持っていた。他にどんな理由があろうとも、この認識がそう簡単に覆るとは思わない。
「鬼とは、地獄で死者に鞭打つ獄卒の役割を果たすといわれている」
漆黒の髪に瞳、纏う衣もまた黒。モノクロの片側を担う白き肌に、唯一の有色、唇だけが紅い。紅が弧を描いた。
「両機のファクターである我々は、その鬼に地獄の門の前で追い返された死者という訳だ。鞭打たれ、我々は世俗に還ってきた」
一度命が尽き、ファクターとして黄泉還ったのは森次と早瀬のみ。そして二人のマキナは鬼との類似点が多い。
「ははっ……だからラインバレルとヴァーダントは鬼、ってことですか」
「ああ」
思わず座り込んでしまいそうだった。戯言と切り捨てるには的を得ていて、極論というには納得してしまう部分も多い。
早瀬がどうしようもない思考の渦に飲み込まれそうになる中、森次は淡々と、
「休憩も終わりだ。次の書類を持ってきてくれ」
森次は何事もなかったかのように、書類に向かった。
彼は確かに鬼だろう。論ずる一口で、早瀬を食んでしまったのだから。
090105
※鬼、ならびにマキナに対する考察、考えは私一個人の極論です。
いつも以上に関係者様各位とは関係ありません。
作品名:鉄のラインバレルログまとめ(森次受中心) 作家名:てい