コードギアスログまとめ(スザク受け中心)
誰に頭を垂れるべき(スザクとルルーシュ)
「スザク、お前本当に変わったな」
「そうかな?」
一介の学生が、ほんの少し前の過去を懐かしむ会話。
そこには鉛玉のような妙な重々しさも、耳を劈くナイトメアの唸りも、電子に一度変換され、人が聞き取れるモノへと変換された指示を出す怒声もない。
酷く穏やかだと、思った。
音らしい音といえば、スザクが鞄に教科書を詰め込む音。校舎の壁に遮られ、遠くから聞こえるような部活に励む生徒の声。
ルルーシュはこの会話を重いものにしたくなかった。深刻なものにしたくなかった。冗談混じりの、本当に「冗談だよ」の一言ですべてが無に帰すような、そんな会話であってほしかった。
「第一に一人称が変わった」
「誰だって自分の呼び方ぐらい変わるよ。ルルーシュだって、昔は“僕”だったくせに」
いかにもしてやったり、といった顔でスザクは言った。得意そうなその顔は、ルルーシュの記憶の中にいる幼いスザクよりも、ずっとずっと子供っぽい。
日差しは夕日と呼ぶにはまだ白く、赤みを帯びてはいなかった。
「ああ、“僕”である必要がなくなったからな」
「なにかあったのかい?」
変革を起こす力を手に入れた。
しかしそれをスザクに正直に言おうとは思わない。当然だろう、告げてしまえばルルーシュとゼロはイコールで繋がってしまう。
だからルルーシュは、“ルルーシュ・ランペルージ”としての仮面を被り、スザクに笑いかけた。秘め事ばかりの自分でも、彼にだけは信用してもらえる。そんな核心が滲んだ笑みだった。
「スザク、知ってるか?」
ぼんやりとルルーシュは、自分はスザクに問いかけてばかりで、何も彼に答えていないな、と思った。
昔なら、そう昔なら、今頃スザクはルルーシュの理不尽さに腹を立てて一発ぐらい殴っていただろうに。
丸くなった、というと取れたと思われる角が違和感を突く。
我慢強くなった、というにはその強さは不透明だ。
別離のあと、スザクに何があったかなんて分からない。問い質すのも野暮だろうと、ずっと聞かずに過ごしてきた。
「“僕”っていうのは、“下僕”からきた自分を遜った言い方なんだよ」
そう、今なら。
この一介の学生の言葉遊びでなら
“冗談”の一言で、全てが曖昧になるこの会話なら
「“俺”はもう、誰かに頭を垂れなきゃいけない、そんな人生は送っていない。なあ、スザク」
「お前は一体、誰に頭を垂れたんだ?」
少しの本心を含んだ彼を暴けるのではないだろうか。
ルルーシュの瞳は真剣さを帯びていた。その鋭さは鋭利なナイフだ。スザクという果実の皮を剥き、その実を暴こうとしている。
「“僕”は」
ナイフは、硬い仮面を傷つけることが出来ない。
「ルルーシュやナナリーと、昔みたいに笑える世界になればいいと思ってる。僕が跪づくのは」
この世界だよ。
080524
作品名:コードギアスログまとめ(スザク受け中心) 作家名:てい