コードギアスログまとめ(スザク受け中心)
とてもうつくしいゆめをみた(ルルーシュとスザクとナナリー)
これはなんですか、と鈴を転がしたかのような声がした。
振り返ればルルーシュの愛らしい妹が首を傾げて相手に尋ねている。
「なんだと思う?」
「なんでしょう」
目の見えない妹は、恐る恐る指先で掌に触れた。掌に何か乗っているらしい。
ルルーシュが近寄れば、スザクはナナリーを優しげに見つめていた。ナナリーは思案顔で、掌に乗せられたものを当てようとしている。
「スザク」
ルルーシュにはスザクがナナリーに何を渡したのか検討がつかなかった。
彼がそんなことをするとは思えないが、万が一ナナリーの手にあるものが危険なものだったら、と思うとルルーシュはいてもたってもいられない。
ルルーシュが問い質そうとすると、スザクは人差し指を唇に宛てて「ないしょ」と唇だけ動かした。
「お兄様、絶対言っちゃダメですからね」
意外と負けず嫌いらしい妹は自力でその正体を当てたいらしい。
そこでルルーシュはやっと、ナナリーの掌に乗せられているものを見た。
白い彼女の掌には、小さな粒が乗せられている。ルルーシュは一瞬、これが妹にとって害になるかどうか悩みかけた。触れればちくりとするだろうが、害と呼ぶほどの痛みはないだろう。
スザクと二人、悩む妹の答えを待つことにした。
「ちょっと痛くて……小さいですよね? それにいっぱいありますし……スザクさん、色は何色ですか?」
スザクは何と答えるのだろう。ルルーシュには、隣の存在が機転を効かせた答えを言えるとは思えなかったが。
「色はね、ないよ」
「色がないんですか?」
「そうだよ。ね、ルルーシュ」
「あ、ああ。コレを指す色はないよ」
「……困りました」
ナナリーは見るからに困り果て、俯いてしまった。ナナリーの中にいくつかあった答えを色の有無で消してしまった。
どんなことであれ、ルルーシュはナナリーが落ち込んでいるところを見ていると何とかしなくては、と本能的に思ってしまう。
ルルーシュは慌てたように口を開いた。
「透明、というのは色じゃないからな」
「まあ、じゃあこれは透明なんですね」
兄が僅かに零した言葉に、ナナリーはたちまち笑顔になっていく。優しく掌の透明を転がし、答え探しを再開した。
「ルルーシュ」
「ごめん。でもあんな意地の悪い返答をしたスザクが悪いんだろう」
スザクが怒ったように言う。
ルルーシュは苦笑混じりに返した。
「ナナリー、答えは分かったかい?」
「分かりません、降参です」
ナナリーが分からないのも無理はない。小さすぎるその透明な粒は、一瞬見ただけでは判断がつかない。
ルルーシュは見当を付けたが、果たしてそれで絶対に当たっているかと言われれば、曖昧に笑って誤魔化したくなる。
「これはね」
スザクは掌の粒子ごと、ナナリーの手を優しく包み込んだ。
「未来だよ」
「未来、ですか?」
「そう。透明で、先は見えるのに……小さすぎて掴めないものなんだ」
「じゃあ私は、小さな未来をたくさんスザクさんから頂いたんですね」
「そんな」
「ありがとうございます」
にっこり笑ったナナリーに、ルルーシュは何も言わない。言えなかった。
もっとも彼女とて、自身の掌が包む粒子が未来だと本気で思っているわけではないだろう。そうだったらいい、お伽話のような輝きを大事にしよう、とそう思っただけだ。
「スザク」
「なんだい、ルルーシュ」
「どうしてあんなことを?」
ナナリーは小さな小壜に小さな未来を詰め込んで、毎晩月明かりの下で抱きしめている。小鬢を包み込む少女の姿は幻想的で、光を受ける様は、確かに未来と言われても信じたくなるような輝きだった。
「あの方が素敵じゃないか」
「ダイヤモンド、とでもいった方が余程現実的でいいと思うけどな」
「現金だなぁ」
「空想家よりはマシだろ」
スザクは昔、あの小さな粒子をダイヤモンドだと思っていた。他ならぬ目の前のルルーシュにそう教わったのだ。
『これは大きなダイヤモンドが砕けて世界に飛び散った、その欠片なんだ』
空想家は一体どっちだ、スザクは思い出して小さく笑った。
砕けて散ったのは、未来でもダイヤモンドでもない。
火山灰に含まれる珪素だ。
ナナリーは素となる小さな粒子を、粒子を反応させて加工した小鬢に詰めて眺めている。
いっそあの頃のまま、この粒がダイヤモンドだと信じていたかった。
時が砕いたのは多分、夢見る心だろう。
バルコニーで月光を浴びる少女を、ルルーシュもスザクも黙って見ていた。
080626(080615)
作品名:コードギアスログまとめ(スザク受け中心) 作家名:てい