特別になれない
無防備に白い喉を晒して眠っている。
「臨也さん」
感覚が無くなるほど強く握ったナイフの柄を、上へ、そして息を止めて真下へ振り下ろした。
――しかし、手応えは無い。
正臣が瞼を緩めると、寝台から体を起こした彼と目が合った。
「おはよう、正臣君」
彼はふわりと微笑み、そしてベッドに刺さったナイフを一瞥した。
喉と同様になま白い手が、その柄に添えられている。
「成る程、君は追い詰められるとこういう手段に出るわけだ」
まさか寝込みを襲われるとは思わなかったけど、と他人事のように呟く。
俺はどこか遠くでその声を聴いていた。
全て見透かされている。
俺の気持ち全部分かった上で、この人は。
「正臣君は、ずるい子だね」
暖かい手に頭を撫でられる。
ゆっくりとした、丁寧な仕草だった。
「やっぱり君は好きだよ」
誰にでも分け隔てなく与えられる温もり。
突き放すことが出来ない自分に吐き気がする。
綿のはみ出たベッドの一点を見ながら、されるがままに抱きしめられる。
言えるはずがないのだ。
飽きたら捨てられるだけの俺が。
あなたのとくべつにしてください、なんて。