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タイトル無し

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これはまだ、死が蔓延する前の話


ぱらり、ぱらり、
狭い室内だと、こうも生活音が響くのか。
馴染みのゲームをしながら徹は横目で背後を伺った。伺った背後、其処に存在しているベッド。ベッドに座るのは所有者である徹でも、徹の家族でもない。
数ヶ月前までは余所者であった、夏野だ。
「夏野や、そんなに本は面白いのか?」
「別に」
徹が声を掛けても、夏野は反応せず手にしている本を捲っている。そうすれば、本を捲る独特な音が聞こえた。
そっけない反応だと思うが、以前を思えば夏野は徹に懐いて来たと思える。自転車を修理していた頃を思い出せば、態度の差は歴然だ。あの頃は、目線を合わせようともしなかった。
(…いや、一回だけ目が合ったなぁ)

『夏野』

徹が始めて名前を呼んだ瞬間である。目線が合った、というよりも睨まれている、と言った方が良いのかもしれない。
ムゥッと不機嫌な表情をして徹を見る夏野。けれど、不思議な事に嫌な感じは全くしない。むしろ、ちょっと可愛いとさえ、

ぽすんっ

「ん?」
唐突に背中へ重みがかかり、重みと言っても対した物ではないが、視線を動かす。
すると、先程まで壁に体を預けていた筈の夏野が、徹の真後ろに座り込んでいた。徹の背に寄りかかりながら。相変わらず、夏野の手には本が存在している。
「どうしたぁ、夏野?」
「…………別に」
「おいおい、さっきと同じ言葉じゃんか」
夏野の返答に、徹はカラカラと笑いゲームを続ける。徹が指で何かのボタンを押す度に、テレビからはせわしなく音が聞こえた。
せましない音に混じって、ゆっくりとした本を捲る音が聞こえてくる。
暫くそんな状態が続いていると、呟くような声が聞こえた。
「…死人は甦らない」
「なんだ?」
「いや…この本に書いてあったんだ」
そう言って、夏野は持っていた表紙を徹に見せるよう掲げる。
本の表紙には「生きてなんぼ」という、奇天烈なタイトル。奇天烈過ぎるタイトルと、夏野が読んでいるという奇天烈な事実に、徹は思わず吹き出すようにして笑った。
「ははっ!夏野にしては珍しい本を読んでるな」
「その呼び方は止めろ。…ただ、気になったから図書室で借りたんだ」
「ま、そんなタイトルじゃ気になるかぁ」
くすくすと、徹は笑いながら言う。
顔が見えなくても、夏野が少しムッとしたのが分かるが、徹は笑いを止めなかった。諦めた夏野は、代わりに態と体重をかけながら話を続ける。
「徹ちゃんはさ」
「おう、何だ?」
「……死人が甦ると思う?」
「ん〜」
自分でも馬鹿な事を言っているのだろう自覚があるのか、夏野は微妙な色を匂わせて言った。
けれども徹は真剣に考え、コントローラーを床に置く。プレイヤーが居なくなった事により、テレビからは虚しいゲームオーバー音が流れる。それでも、徹は気にする事なく夏野の方を振り返った。
「な、なに…?」
「もし、そんな事が起きても夏野が心配する事はないぞ?」
「え?」
驚く夏野を余所に、徹は目の前の体を引き寄せ、頭をポンポンと撫でる。夏野はただ、目を瞬きさせる事で一杯一杯であった。
「そうか、そうか…夏野は本を読んで怖かったんだなぁ」
「っ…!!」
そんな時、急に当てられた図星に夏野は息を呑む。
怖かった
確かに、本を読んで怖かったのだ。怖いというよりも、背筋が震えたと言う方が正しい。
死人が甦る、というよりも、死人が存在するという事に。死人という存在その物に。死、という事実に。
「大丈夫だ。少なくとも、寝床を貸してやる事位なら、してやれるから」
だから安心しろな?
小さく囁かれるように言われた徹の言葉。夏野は、胸元の服を握り締める事しか出来なかった。
二人の横で、夏野の手から離れた本がパラパラと音を立てて勝手に最初のページを開く。


恐怖の旋律は、密かに二人に忍び寄って来る
そして、数ヵ月後
村に死が蔓延し、夏野は徹の部屋へ寝床を借りるようになり、

死人が甦る



作品名:タイトル無し 作家名:Hkk0