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無音世界

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 説明を聞き終えた瞬間静雄は、ああ、自分のせいではなかったのかとやや安堵したと同時に、何故日頃殺そうとしていた相手の心配なんてしていたのだろう、と思った。恐らくそれは自分のせいではないと分かったからこそ思い、むしゃくしゃしているのであって、もっと悪い事態を告げられていたらこんな思いを抱くことはできなかっただろう。随分と都合のいいものである、と我ながら思うが、取り越し苦労をしていたようでならなかった。やはり彼は柔ではない。しかし、人間である。過労とストレスで倒れる普通の人間だった。
 漸くありふれた現実が戻ってきたようで、ふいに煙草が吸いたくなってきた。灰皿が無いのでどうしたものかと思っていると、今度は臨也が此方へやってきた。
「ちょっと、臨也!まだ寝てなよ!」
 新羅がふらりとしながらやってきた臨也に忠告する。しかし、臨也はあっさりとそれを流してしまった。新羅に向けられていた視線が此方へ移動する。ばっちり目が合って、これが普段であれば静雄は問答無用で殴りかかったことだろう。
 しかし、さっきの今では流石にそんな気がこれっぽっちも起こらなかった。
「いいのかよ?」
 それは臨也に対して投げかけられたものなのか、それとも新羅に対してなのか分からなかった。静雄も明確にどちらに対して掛けた声とは言えず、むしろどちらに対しても掛けた声の様な感じでもあった。返ってきた反応は臨也からのものであったけれども。
「よかった、シズちゃんの声、ちゃんと聞こえる」
 全く持って予想外の言葉だった。臨也はふにゃりと今まで見せたこともない様な安心した表情を浮かべて言う。その滅多にない笑みに静雄は思わずぽかりと口を開いた。目の前でそんな表情を見せているのが静雄の知る臨也と酷く掛け離れていて、けれどもそれは確かに臨也で。臨也の気配は慣れているから、よくわかる。これは臨也だと気配でわかる。けれども、その顔を見る限り臨也とは思えなかった。脳内処理が追いつかない。
 しかし、そんな静雄のことに構うことなく臨也はさっさと踵を返した。新羅がそれを追いかける。
 暫くして静雄がはたとし、後を追いかけた頃には臨也は当に新羅の家を出て行くところであった。
 おい、と荒々しく声を掛けると臨也がいつもどおり人を見下したような笑みを浮かべるばかりだった。




さようなら無音世界、おかえりなさい愛憎の声がする世界





「ばいばいシズちゃん、またね」

作品名:無音世界 作家名:佐和棗