シオン×フロワード
深夜の王宮。その執務室に訪れた部下を、王は招き入れた。
ローランド国王シオン・アスタールは軍人で中将の地位にいる己の部下、ミラン・フロワードを見た。
フロワードはシオンに心酔している。崇拝とも言って差し支えない程の傾倒ぶり。フロワードがそこまでシオンを想う理由を、シオンは知らない。
「陛下」
フロワードは恭しく一礼する。綺麗な黒い髪に女性の割に長身で華奢な体。濃紺の瞳に細い指。美しい顔。
「そろそろお考え頂けたでしょうか」
「また世継ぎの話か。その話は終わったと言ったろ」
シオンはゲンナリとした顔で言う。しかしフロワードは力を込めてシオンに進言する。
「しかし陛下。いつ何時何があるか分かりません。陛下のお体が正常なうちに、世継ぎを作って頂かないと・・・」
シオンはあまりの言われようにがくっと体を崩す。
「お前・・・いや、いい」
シオンとフロワードは、いわゆる男女として関係を持った事がある。一度や二度ではない。フロワードはシオンの誘いを断らぬし、自分から誘ってくる事もある。
シオンは不思議に思っている。フロワードはこれほど自分に傾倒していて関係を持ちながら、何故こうも世継ぎを望むのか。
「お前、何故俺に結婚を勧めるんだ」
「結婚を勧めている訳では。世継ぎを望んでいるだけで」
シオンは頭に手をあてた。フロワードの感覚は普通の人間とずれている。
「・・・何故、他人と俺が関係を持つ事を望むんだ?」
直接的に聞く気持ちに、何故かなれない。
しかしフロワードはシオンの言いたい事を察したようだ。
シオンは不思議だった。他人の女とシオンが関係を結んで、フロワードは何も想わないのだろうか。
フロワードは微笑した。どういう意味を持つ笑みなのか、シオンには分からない。シオンはフロワードが分からない。
「陛下。私は、陛下を崇拝しているのです」
愛しているのではない。そう言われたのだろうか。
シオンは悲しくなる。
「俺は・・・嫌だよ」
「陛下」
フロワードの声はいつもよりは優しげだった。その優しげな声でやや諫めるように言う。
「世継ぎは、王、あなたの財産となります。この国が発展していくため、王子の存在は利用価値が高い」
それは、他国との交渉に利用すると言う意味だろうか。
シオンは仕事の手を休め立ち上がる。フロワードの近くまでいくと、彼女を簡易ベッドの上に押し倒す。
「陛下、おたわむれを」
「フロワード俺は、」
シオンが何か言う前に、フロワードはシオンの胸を押し、拒絶する。初めて断られて、シオンは少し驚く。
フロワードは困った様な顔をしていた。手の掛かる子供をしつける教師のような、そんな顔。
「・・・陛下のお心に、そこまで強く想いを残してしまったのですね」
「俺はそのつもりだ」
「でも陛下。私との関係は何も生み出しません」
「何故だ。俺は気持ちは伝えたと思っていたが、そうじゃないみたいだな。フロワード、俺はお前が・・・」
フロワードはシオンの唇に人差し指をあてる。首を横に振りながら、困りながらも嬉しそうな顔で言う。
「嬉しいです、陛下。この身は貴方のもの。私は貴方に全てを捧げております。でも陛下、私は陰なのです」
「でも俺はお前が好きだ。今お前以外の女を抱く気にはなれない」
フロワードはやや頬を染める。シオンはフロワードに覆い被さる。
「フロワード。時期が来たら、ちゃんと選ぶよ。世継ぎが必要なのは分かってる。でも、今俺はお前以外要らない」
「陛下・・・」
フロワードは体の力を抜いた。今何を言っても無駄なのが分かったらしい。シオンの顔に手をあてて、フロワードからシオンに口づけする。
「陛下・・・私は、貴方を愛していない訳では無いのですよ」
服を脱がされながら、フロワードは言う。シオンの服を脱がしつつ微笑む。
「では、愛していると?」
「愛しています。何よりも誰よりもこの世界で一番貴方を。私の王、私の主」
シオンは頬を赤くしてフロワードを見る。子供のように耳まで赤くする年下の主に、フロワードは笑いをこぼす。
「でも私はこの国の陰を背負っているのです。ですから、表舞台に立つ事は出来ません」
しかしシオンは言う。不敵な笑みを浮かべながら。フロワードは見惚れた。
「そんなの、俺がなんとかする」
「なんとかって・・・」
「平和になったら、この国が安定したら、大陸の覇者になったら、その時お前の経歴を新しく作り上げればいい。・・・簡単な事じゃないか」
言われ、フロワードは目を少し開く。胸の鼓動が早くなっている自分を自覚し、シオンを見上げる。
「可愛いな」
シオンは自分を見上げてくるフロワードの顔を見て笑う。フロワードは耳まで顔を赤くした。
「そのような・・・あっ」
「フロワード。いやミラン。お前は俺のものだーーー」