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言霊迷路

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小学校の頃から、俺が生み出してきたのは破壊だけだ

いくら大事に大事にしていても、最後にはふとしたことで壊してしまった
大切に育てていた花も、気が抜けた時に鉢を割って壊した
慎重に作っていたプラモデルも最後の接着の部分で引っ付かなくてイライラして壊した
そんな他愛のないことで全部壊れていった
小学校での下手なりの友達関係や先生との関係、淡い恋心をもってた店員
でも、そんな破壊ばかりしか作れない俺に、唯一作れたのがお前だった

「しーずお君!一緒に帰ろう!」
「ああ」

解剖したがりな思考と同居人が大好きな変人な部分を除けば、まだまともな奴
質問をすれば怖がらずに笑顔で答えてくれるし、頭はいいし、解剖ばかりだから固い奴かと思えばそれなりにバラエティ番組とかも見てるし
よくしゃべるからうるさい時もあったけど、嫌いじゃなかった
それに”言葉”に”力”があることも教えてくれた

―静雄君、言霊っていうのを知ってる?
―なんだ、それ?
―昔の人はね、口から出した”言葉”には”力”が宿っていて、口から出したことを実現できるっていう信仰なんだけど
―は?
―要するにね、今から勉強やるぞ!っていうのを心の中で呟くよりも”言葉”にだして言った方がなんとなくやる気になる感じかな?
もしくは俺って駄目だとか”言葉”にすると本当に自分が駄目な気がして落ち込んじゃったりとか、静雄君はそういうことない?
―・・・ある
―そうなの?静雄君の力って、僕としてはもっと強くなって解剖させてほしい所だけどってうあ゛!!痛い・・・
―ふんっ
―ま、まあ、こうさ、すぐに行動に移すんじゃなくてさ、先に言葉にして殴りたい勢いを一時停止させたらどうかな?ちょっとは落ち着いて殴れるんじゃないかなぁ?まぁ、気休め程度の希望観測だけどね
―ふぅん・・・コトダマ、なあ

新羅の言うとおりにするのはちょっと手間取ったが、確かに少しだけ手加減ができた
そのことにはかなり感謝してるし、ちょっと嬉しかった
一緒に、てとてと、と途中で牛乳を買って帰りながら、商店街を抜ける

「そういえば、卒業したらバラバラになるねぇ・・・残念だよ、静雄君の進化が間近でみられないなんて・・・まさに今、会うは別れの始め、会者定離を体験する時、だけどまた会えることを願っているよ!」
「・・・そう、なのか?」
「うん、ちょうどさ、この商店街が区切りになってて、僕らこの先で左右に分かれるだろう?静雄君の方が東第二中、僕の方が南第一中になるんだよ」

新羅は、俺達がいつもわかれる道を指差しながら説明する
来年、隣にこいつはいない

・・・俺は、また ヒトリ になる?

「・・・新羅」
「ん?なになに?解剖させてくれる気になった?」
「お前、携帯持ってたよな、電話番号教えろ」
「え?うん、いいよー」

首を傾げながらメモ紙代わりのプリントを取り出し、電話番号とメールアドレスを書いている
まだ自分には持たせてもらえないだろうが、直通の電話番号は貰った
幽よりも少しだけ近い頭を見ていた
中学ではもう少し上手く立ち回れるだろうか
無理だな、多分、いつかキレてまた”暴力”をふるってしまう
耐えられるだろうか
つるむことを、隣に人がいる状態を知ってしまった俺に

「はい、静雄君。俺の番号、怪我とかしたら応急処置くらいならできるから」
「おう」

潰れそうになった時の、保険だ
お前はたった一人の友達だから
こんな俺にも話しかけて、笑いかけてきてくれた奴だから

「あ、じゃあまた明日ね、静雄君」
手を振って笑顔を向けてくる新羅につられるように少しだけ笑みを浮かべ、片手をあげる
初めて振り返したのに気付いたのか、一瞬だけ目を丸くして、また嬉しそうに笑う
ふわりと胸の奥が温かくなったのに気付いて、照れくさくなってさっさと踵を返した

もしも
もしも、この”理不尽で暴力的な力”に理由をつけろというのならば
俺は家族や新羅を守るためだと、言いたい
そう思うと、この”異常な暴力”も少しだけ受け入れられたんだ
怖いけれど、恐ろしいけれど、嫌いだけど、ほんの少し安心した

自分勝手な感情の暴力で破壊することもあるだろう
それが嫌で嫌で憎くて怖くて仕方がない
けどよ、お前らが許してくれるのなら、ずっとずっと守ってやる
俺の家族も、お前も、お前が好きだという家族も、全部一緒にまとめて

護るから
俺から離れないでくれ
俺に、人を信じさせてくれ

そのまま卒業し、トムさんと出会い、中学で生徒を仕切ってくれたからあんまりキレることはなかった
キレてビビらせることで怖がられたけど、小学校の頃よりはましだ
ただ、キレてしまうたびに体を壊し、入退院を繰り返している内に体はより強靭になっていった
トムさんが卒業してからは少し荒れたけど、重症にさせたりはなかった
幽がちょうど入ってきたから、落ち着いたんだと思う

受験の関係で来神高校の会場に行くと見慣れた顔があった
実際に顔を合わせていたわけではない
毎日、忘れないように、暴走しないように、する度に新羅の顔を思い出していたから
それは戒めを神に誓うように、希(こいねが)うように、崇めるように

再会しても新羅の態度はまったく変わらなかった
同じように笑顔で、同じようによくしゃべって、まっすぐに俺を見てくる
久しく感じていなかった懐かしい感触に内心安堵しながら、照れが先にきて、ぶっきらぼうになってしまう
それでも彼は嫌な顔せずに、話しかけてきた
ここに入れば以前のような友人関係が築けるだろうか
淡い期待を持ってみると入学して3日もしないうちに学校で不良に絡まれた
静かに暮らしたいだけなのに突っかかってきやがる

ああ、イライラする、ムカムカする
いつの間にか新羅が知らない奴と一緒に朝礼台にいた
一通りぶっ飛ばして顔を向けると中学時代からの友人だという

ギチッ
心のどこかで軋みが入る
目の前の男は口元だけで笑みを浮かべ、ペラペラと御託を並べる

癪に障る、目が気に食わない、口調がうざい、仕草がうざい、動きがうざい、早く新羅から離れろ、うざったい!!
思った瞬間に既に朝礼台を壊し、拳を男を向けていた
怒りで周りが見えず、ナイフで胸を切り裂かれたが、痛くはない

汚れる、穢れる、冒される、侵される、ソレは阻止しないといけなかった
俺は新羅を護ると決めたんだ、暴力は嫌いだ、護るんだ、暴力を使いたくない、邪魔だ、争いは嫌いだ

けど、どんな害虫も近寄らせないと俺自身で決めたから
アレは処分対象だ
それから結局折り合いは付かずに、卒業の時に決定打、今までもこれからも嫌いあって過ごす

ああ、だからさあ
なんでてめえがいるんだっ

「ぉおおりぃいはぁあるぁああああああ!!!!!!」

【歪んだ歪む歪められた恋情】

(新羅のいる)俺の池袋にくるんじゃねえ
作品名:言霊迷路 作家名:灰青