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千石と亜久津で擦れ違いラブ

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彼女に振られた。理由は「千石くんはわたしを見てない」。そんなことない、と言いたかったけど言えなかった。たしかにそうかも、とか思っちゃったからだ。こういうときは不貞腐れたふりで石ころでも蹴ってキミのところへ向かうに限る。そして「フラれちゃったよ」と笑う。そしたらキミは「どうせおまえが悪いんだろ」って呆れてるみたいにためいきをつくんだ。想像しただけでにやけてきちゃう。フラれたばっかだってのに不謹慎かな、なんて思う。でも仕方ない。だっておれはいつだってキミのこと考えるだけで笑えてきちゃうんだから。

「いますぐ来てよ」と呼び出すと、誰が、とかぜってえイヤだ、とかなんとか文句を言いながらも、キミはおれが指定した場所で待っていてくれた。「来てくれたんだー」と大げさに喜んで抱きつくと、「うざい」と言ってしっしっとされる。酷い。「で?」キミは俺のほうを見ずに言う。すかさずおれは「なぐさめてよ」と言う。するとキミはとても嫌そうな顔をしながらも、「ウチはダメだぞ。ババアがいるからな」と言った。

ねえあくつ、本当のことを教えてあげる。彼女に振られたのはキミのせいだ。いつもいつもオレが、キミのことばっかり考えてたからだ。「千石くんはわたしを見てない」。あたりまえだ、だってオレがいつも見ていたのはあくつだもの。あくつのいつでもすっと伸びた背中、時間をかけてセットした髪、恰好つけるためだけに吸ってるまずい煙草、自分ひとりでいいんだと言いたげなその言葉、うらはらな態度。ぜんぶぜんぶ好きだ。とても好き。だけどキミにはぜったい言わない。言えるわけない。だって言った瞬間あくつはおれから離れてしまうんでしょ?わかってるよ。

だからおれは必死になってあくつ以外の恋人をつくるんだ。あくつ以外にたいせつなひとをつくる。おれにはほかにたいせつなひとがいるんだよって、必死になってあくつに伝える。見せ付ける。そうしないとおれは、おれにはあくつを繋ぎとめられないから。

くちびるを押し付けたら、あくつの舌がとても熱くて泣きそうになった。

「泣いてんのかよ」とあくつが言うから、「うん、あくつのせいだよ」と答えた。「意味わからねえ」と言うそのくちびるに噛み付いて、「わかってよ」と言う。でもわからなくていい。こんなにキミが好きだなんて、たとえ死んでも教えてやらない。