【APH】変化と違い【米湾】
「陳腐な台詞、私好きじゃないヨー」
「本当のことなんだぞ」
「言い過ぎは良くないデス、アルフレッドさん」
アルフレッドが持ってきたキャラクターグッズを見ながら、彼女は言った。桃の髪飾り、漆黒の髪、ピンク色の唇、爪もきちんと手入れしてあって綺麗な楕円型になっていた。しかし、決してごてごてと飾り立てられているわけではなく、ただただシンプルに纏め上げてある。その少女も決して派手ではない。けれどもきちんと感のある化粧で、年頃らしく鏡を覗き込んでいた。
「そんなに鏡見ても君が可愛いのは変わらないんだぞ」
「う~、アルフレッドさんの褒め言葉は褒めすぎて信じられなくなりマス」
小さな喫茶店に向かい合わせに座っている。遠目から見ると彼氏と彼女のようにも見えなくも無い。同じようにラフな格好、彼女の隣には沢山のプレゼント、そして湾は多少不機嫌そうな表情で、まるで彼女の機嫌をとっているようなように見えなくも無かった。
「俺は思ったことを素直に言っているだけなんだぞ。湾は可愛い」
「あーモウ!そういうのは時と場合を踏まえて、言うから効果的なんデス!!」
がたん、いきなり立ち上がってぷりぷりと怒る。その瞬間に勢いでテーブルの上のドリンクが波立つ。それをそっと抑えてアルフレッドはため息を付いた。
「君がその話をすると必ず菊の話になるから嫌なんだぞ」
「本田さんは!!……いエ、なんでも無いヨ」
「いつもなら自慢話をするじゃないか」
「だって、アル…本田さんの話をすると機嫌悪くなるの知ってる…」
立ち上がったまま俯いて、それから、アルフレッドの方を見た。湾に向かって、ねぇ、アルって呼んでといったのは半年ほど前だった。何度も何度も彼女は家で予行練習をしていたんだ。けれどなんとなく呼べなくて、やっと呼べたと思ったら言い訳のようなものだったなんて、考えて、ぎゅうと拳を握った。おしゃれもして、精一杯背伸びをした。アルフレッドの背中は湾にとってはとても大きいものだったんだ。
「…ま…アルって」
「…あ…、の…」
「アルって呼んでくれた!??」
机があるにも拘らず、がたん、アルフレッドも立ち上がってぎゅうと強く湾を抱きしめた。わーおとか、湾には理解できないような英語を沢山言っていた。喜んでいるのは分かる。ふたりの間にあるファストフードはひっくり返ってしまいそうなほどだ。驚くほど強い力で抱き寄せてくる。頬を摺り寄せられて、いつもは別れ際にしかしてくれないキスを頬にちゅ、ちゅと何度も繰り返した。
「よ、呼んだケド」
「もう一回呼んで」
「あ、アル…?」
「もう一回、」
「そんなに嬉シイの?」
勿論だぞ!と抱きしめていた彼女を抱き上げる。あっという間に地面が遠くなってしまう。
「ずっと待ってた!」
「ワタシが、呼ぶのを?待たなくても、いつもみたいに言えばイイのに」
それじゃあ意味が無いと、首を振ってアルフレッドは屈託無く笑う。子どもみたいな無邪気な笑い方に胸の奥がほっこりと温まる感覚がした。褒め言葉は腐るほど言うのに、信じることが出来なくなるほど沢山言うから、全て思っていること、感じていることを全てアルフレッドは湾へと言っているのかと思っていた。そうではなかったのだ。
「君が言う自然な音が良かった」
「陳腐な台詞デスね」
「けれど、君は照れてる。いつもの褒め言葉よりずっとずっと」
いつもより高い視界、アルフレッドの腕の中に居るから、いつもと違う雰囲気、それは名前を呼んだから、本当にいつもとは少しだけしか違わないのに、全く違う空気を孕んでくる。
ホント、世界って、恋愛って不思議。
作品名:【APH】変化と違い【米湾】 作家名:kk