放課後怪談。
戻らない夏。久々知は反芻しながら斜交いの空を仰ぐ。気が遠くなるようだった、真昼の晴天の空、歪む倦怠と、瓦解する怠惰と、うだるような暑さ。初等科の育てている花が、くしゃりと丸まった花びらの先に黄色を茶色くくすませて立ち尽くしていた。向日葵は大抵大きくなるものとは知っては居ても驚くくらいに、とりわけ、今夏の花はせいが高い。竹谷程は無いが、尾浜の身長は追い越して居る。虫喰い穴の在る番広な葉の上に大きな蟻がうろうろとうろついて居るのを見て、ふと、夏の中にいるのに、夏が恋しくなった。遠くで、風鈴の音が聞こえる。視界には校門のわきに植えられた幾本かの木の枝が張り出していたが、蝉の声がどこから降って来ているのかは、どれだけ目を凝らしてもわからないままだった。
一度きりの夏。途方もなさに眩暈がする。それをひたひたと肌で実感しながら、久々知は近づく夏の終わりを恐れていたし、夏が終わらない事を怖がってもいた。
蝉が啼いて居る。あぶらぜみだとかくまぜみだとかいった賑やかな昼間の蝉では無く、ひぐらしの、どこか心細く切ない啼き声だった。