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シークレットオブマイフレンド

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「あーあ、本当にうらやましい。」

私は目の前にあるパフェのイチゴを頬張りながら、やや暗くなってきたからか、人のまばらになったカフェの店内で幼馴染の何度目かわからない感嘆のため息に耳を傾けてやる。
私の向こう側の席に座り、ぼんやりと空を見上げながら溜息を吐く幼馴染の想像もとい妄想の内容にはなんとなく心当たりがある。大方、今日の授業参観であった母との会話のことに違いない、という私の予測から外れてなんていないだろうからいただけない。私はやや溶け始め頭を下げ始めたソフトクリームをすくい口へと運んだ。

「いいなあ。あんな人と毎日一緒に過ごせるなんて。」

彼の言葉は私の想像を裏付けるようなものだった。またか、と私は思うが特に反応を見せずソフトクリームを食べることに集中する。彼がおごってくれたパフェがなかったらさっさと家に帰っているに違いない。何度目になるかわからない応答をするために私は銀の長いスプーンを置き彼のほうを横目で見た。

「母さんには手を出さないほうがいいと思うよ。確かに優しいけど、怒るととっても怖いから」

正確には怒るではなく、切れるとだが。私はもう一度パフェを食べる動作に専念し始める。私は、はぁ、と熱っぽい溜息を吐きながら、怒ってる姿も素敵なんだろーなーと頭の沸いたことを言う幼馴染をみて、末期だと冷静に思った。第一母は男だ、女が好きだ、女を愛してると言うこの女好きの男がなぜ母に惚れたかが、幼いころから腐れ縁のような付き合いをして長いが、いまだにわからない。第一、冷蔵庫やら標識やらを分投げる姿を見て、カッコイイならまだしも素敵だと感嘆してしまえる幼馴染を私はいまいち理解できないし、聞けば愛だの何だの嘯くのだから手に負えない。恋は盲目というがあれは確かに的を得てると思う。まさにこいつは母以外は見えなくなっている。性質的に、女の子大好きは全く変わっていないが。
決して悪い人間じゃないことは分かっているのだ。わかっているが、自分の母親に惚れたの何だの言われるこっちの身にもなってほしい。

「一応、友人として忠告しておくけど。」
「何?」
「母さんに手を出したら、父さんに殺されちゃうよ。」

私が言うと、彼はだらけた笑顔のままへらへらと笑った。心配してくれてんの、やさしーなーとお決まりの言葉が出てくるのに辟易とした。全くこの男は分かっていない。恋敵にしては絶対いけない男だ、父は。少なくとも、娘という立場から見てもこれだけは絶対に言える。父は容赦をしないし、いったん邪魔だと思った人間は徹底的に潰すきらいがある。母と暮らし始めるまでに紆余曲折あったらしいが、私は詳しくを知らない。知らないが、父のことだ、何かよからぬことでもして周りを丸めこんだに決まっている。

この幼馴染がこうして母に一方的な恋心を抱いているだけならばまだいい、まだいいが、下手すれば、父の毒牙にかかりとんでもない方向へと人生を転がしてしまうかもしれない。
結構危ない橋を渡っているということに、この幼馴染は気づいているんだろうか。

「大丈夫大丈夫。愛ってやつは、障害が多いほど燃え上がるもんなんだから。」

からりと笑う男に私は溜息を吐く。毎回私の言葉は届いているようで届かない。結局わかっていないようだが、それでも幼馴染はひどく幸せそうに笑うので私はそれ以上注意をしない。
しないままパフェのコーンフレークを口に運び、咀嚼しながら嬉しそうに笑う幼馴染を見て、恋する男はほんとに手に負えないと毎回確認してしまう。

「相思相愛の場合はね。」
「そのうちなるから大丈夫。」

私がため息交じりに言った言葉にも、やっぱり幼馴染は楽しそうに笑い、授業参観であった母との会話を脳内でリフレインしているのだろう。
会話ができただけで心底幸せそうにしている幼馴染を見ながら、もし万が一、こいつが母に手を出したりしてしまい、そして父にばれてしまったら、幼馴染のよしみで骨くらいは拾ってやろうと、私は固く決意する。