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チョコラータとセッコ

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午後、セッコが何か食べるものを探しにキッチンへ行くと、満面の笑みで何かを見つめるチョコラータに出くわした。彼が掛けるダイニングテーブルには、見慣れぬ箱が一つ置かれている。満足げな顔をしたチョコラータは、その箱を眺めているのだった。
 箱は、つやつやした淡い色の紙で出来ていた。あまり難しいスペルを知らないセッコでも読むことが出来る。ビデオカメラが入った箱だった。
 材質は段ボールとは少し違うようだ。それよりもずっと薄手で、鮮やかな黄緑色のインクで商品名が印字されている。品物の入った箱といえば、愛想のない黒文字が印字された段ボール箱しか知らないセッコには、なにやらそれは、たいそう特別なものに思えた。
「それ、新しいやつか?」
セッコは箱の表面に手を触れ、訊ねた。予想していたとおりのつるつるとした感触が指先に伝わる。きっと高価な品なのだろう。
「あぁ、よく気づいたなぁ!セッコ」
 いっそ不気味と言って良いほどの深い笑みを浮かべ、チョコラータは頷く。そして、セッコがそう質問を待っていたかのように滔々と語りはじめた。
 曰く、件の品は日本の有名メーカーの最新式のデジタルビデオカメラで、今までにない画素数で限りなくリアルな動画を保存でき、さらに再生時間も従来製品の1.5倍という、とにかく最新式のカメラであるらしい。カラーは生産数の少ない、限定色のヴァイオレット。オプションとして、何種類もの望遠レンズも搭載された、チョコラータのとっておきという訳だ。
 立て板に水のような説明にセッコは思わず顔を顰める。内容の半分もわからなかった。けれど、そのカメラが「前のものよりも良いものだ」ということと、おそらくそれを使って撮影するのは自分だということは何とか理解した。

「セッコ、こっちへ来い。そしてそこへ座っておいで」
ようやく話しが終わったのは、あれから20分ばかりが経過した頃だった。怒涛のように語って満足したのか、チョコラータは説明を切り上げ、セッコを椅子に掛けさせると、忙しなく立ち上がった。何をしにいったのかと眺めていると、シュガーポットとマグカップを持ったチョコラータがキッチンから戻ってくるのが見えた。運ばれたものたちは、几帳面にテーブルに置かれる。
「セッコ。セッコ! 今日からおまえはこの素晴らしいカメラで撮影するんだぞ! しっかり操作方法を覚えてもらわなきゃあならない」
ぼんやりとその様子を見つめるセッコに特に気を悪くするでもなく、チョコラータは箱の中から次々と中身を取り出す。常にない陽気さで、鼻歌まで歌いはじめるチョコラータに、セッコは少しうんざりした。きっとこれからカメラの使い方についてみっちりと教え込まれるのだろう。そう思うと気分がすっかり萎えていく。
 けれど、ふと考えてすぐに思い直した。シュガーポットが用意されたということは、それ相応の褒美がもらえるということなのだろう。今日のチョコラータはひどく機嫌が良いから、もしかすると甘いのをいつもよりずっとたくさん貰えるかもしれない。だとしたら、多少の面倒も我慢できようというものだ。


 身振り手振りを加え、時に図説を加えながら説明するチョコラータの話に、セッコは真剣に耳を傾けた。
 はじめて彼と会った時の日のことを思い出していた。あの日もチョコラータはこうしてセッコになにかを説明していた。何を説明されていたかは忘れてしまった。覚えているのは、チョコラータに教えられたことを、自分がきちんと完遂出来たことだけだ。
 今までたくさんの人間がセッコに色々なことを教えようとしてきたが、誰一人上手く教えられるものはいなかった。こいつには無理だと、早々に諦めてしまう。セッコの理解力にではなく、セッコという存在に音をあげてしまう。意外なほどの根気の良さで、セッコに最後までなにかを教えてくれたのは、チョコラータだけだった。

 よくできた、と、小さな子どもにするように撫でる手が好きだった。
 はじめは「手」としか認識してなかった。甘い角砂糖をくれ、自分を撫でてくれる手。次に声。自分の名前を呼ぶ声。他の人間のように、煩わしいことは言わない。
 名前を尋ねてみようと思ったのは気まぐれだ。彼のことを呼ぼうとして、名前も知らないのだとはじめて気付いたから。この手の、声の代わりになる者を他に知らなかった。だからついて行こうと思った。それだけだ。

「きいているのか!セッコ!」
もの思いに耽っていたセッコは、チョコラータの怒声で我に返った。相変わらず興味の向くことになると、止まらないのがこの男だ。
けれど他にすることもないので、セッコはチョコラータのところにいようと思った。
作品名:チョコラータとセッコ 作家名:くさの