二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

上田城、給料事情

INDEX|1ページ/1ページ|

 


―上田城、給料事情

 ある晴れた昼下がり。
スパーンと音を立てて勢い良く障子が開いた。
「佐助、いくら城内とは言えもう少し忍べ。」
幸村は書き物の手を止めることなく呟く。
佐助はその言葉を無視して大声で叫んだ。
「いつも通りじゃん!」
「何が。」
渋々振り返った幸村に佐助は『給料』と毛筆で書かれた袋を突きつける。
「俺、言ったよね!? この前の戦のとき!
 『終わったら給料上げてくれよ!』って!!」
「本気だったのか!?」
目を丸くする幸村。
「当たり前でしょー!」
「俺はまた、お前のいつもの冗談かと思っていたぞ。」
一点の曇りも無い真剣な表情で言われた言葉に佐助は思わず膝から崩れ落ちる。
えーっと、とりあえずいつもの冗談てなに?いつもの?
俺様冗談なんて一度たりとも言ったことないのに。
…いや、それは嘘だけど。
今までのも全部冗談だと思われてたのかな…。
そう思うとなんだかやぶれかぶれな気持ちになる。
だけどそれでも、今回は退くわけにはいかない。
佐助は拳を固め、挫けそうな心を奮い立たせる。
「兎に角、給料上げろとは言わないから今回の恩賞出してよ、恩賞!」
佐助のいつになく真剣な瞳に幸村の心も揺れる。
確かに佐助の働きは素晴らしい。
特に此度の戦では戦の要となる地を陥落させ、お館様からもお褒めの言葉を頂いていた。
お館様からお褒めの言葉を頂いた事実こそ値千金。
それだけで十分ではないか?と幸村は一瞬思ったが、佐助の主はあくまで自分。
部下を労うことも主としての立派な務め。
普段の給料を上げる、となると厳しいものもあるが一度限りの恩賞ぐらいなら何とか…。
幸村は揺れる気持ちを抱え、佐助の方に向き直る。
「何に使うんだ。」
真剣な目で見つめてくる幸村に、佐助は少々バツが悪そうに視線を逸らす。
「あー、新しい忍具を買おうかなって思ってね。」
想像以上にまともな理由に幸村は拍子抜けする。
何故そこで言いづらそうにするのかが分からない。
「なんだ。必要経費ならば恩賞としてではなく、普通に出してやるぞ。」
「マジで!」
幸村があっさり告げると、佐助の顔に笑顔が広がる。
「これなんだけど。」
佐助はうきうきした様子で懐から巻物(カタログ)を取り出し、幸村に渡す。
それに目を通す幸村。
最初は明るかった表情が巻物を読み進めるにつれてみるみる険しくなっていく。
最後に値段の箇所で静止する視線。
確認のために、指差しでゼロの数を確認する。
わなわなと震える手。

べしっ

幸村は思い切り巻物を投げ捨てた。
「お前は馬鹿か!
 なんでこんなものに、こんな金…!」
怒りに震える幸村。
その言葉に佐助はみるみる機嫌を悪くする。
「こんなものって酷くない?ほら、こことか最新の機巧技術が使われてるんだぜ!?」
拾った巻物を指し、力説する佐助。
その興奮した様子を幸村は冷ややかな目で見つめる。
「…お前、長曽我部殿に影響されてないか?」
「………そんなことないって。」
そう答える佐助の表情は明らかに図星をさされたときのものである。
怪しい。
幸村は佐助の目をじっと見つめ、重ねて問いかける。
「本当か?」
視線に耐えかねて、佐助は思わず目を逸らす。
視線を逸らすのは敗北の証。
このままじゃあの憧れのからく…忍具が手に入らない!
佐助はとにかく勢いで誤魔化そうと決意する。
「ねっ、お願い。
 旦那の団子代減らせば良いじゃん。」
作った笑顔で言ったその言葉が幸村の何かに触れた。
「あれは俺の小遣いから出しておるのだ!お前にどうこう言われる筋合いはない!」
勢いよく立ち上がって力説する幸村。
その言葉に佐助も立ち上がって対抗する。
「じゃあ、昨日とか一昨日とかその前とか!俺が立て替えた分返せよ!」
今度は幸村が言葉に詰まる。
しばらく唸った後、幸村は思い出したように手を打ち、
「そのまた前は俺がお前に団子をおごっただろ!」
と言った。
「それは旦那がどうしてもおごりたいって言うからじゃん!
 別に俺様が強請ったわけじゃないし!」
佐助の主張に幸村は胸を張って不遜に答える。
「何を言っても結局俺の金で団子を食べたことに変わりはないわ!」
今にもふははははと、何処ぞの魔王のように笑い出しそうな幸村。
殴りてぇ。
その思いを必死に抑え、拳をさらに固く握り締める佐助。
「あーそー。そう言うけどね、あんた、この前祭りに行ったときのお小遣い!
 あれ、俺様の給料から出てるんだからね!」
それ以外にも、もう弁丸さまの頃から数えたらどれくらいになるか。 
全部払ってくれるっていうの?
古い話を持ち出して食い下がる佐助を、幸村は一蹴する。
「何だ、佐助。俺とお前の仲で今更そんなことを言うのか?水臭い。」
手を腰に当て、幸村は仁王立ちで高らかに謳う。
「大体佐助、お前は某の忍だ。
 つまりお前のものは俺のものも同然。それを今更そのような小さいことでうじうじと。
 みみっちいぞ。佐助。」
そんなんだからかすが殿に嫌われるんじゃないのか?
予想外の方向から来たトドメに佐助は膝を折り呟く。
「…そんな横暴なっ……。」
否定出来ないのがまた辛い。
勝利を確信した幸村はさらに追い討ちをかける。
「大体お前の言う忍び道具など信用できるか!
 この前の笛グライダーだってそうだ!
 あのようなもの、お前は烏で飛べるのだから必要ないではないか!!」
「そっ、れはそうかもしれないけどさっ!」
佐助の嘆願によって導入された笛グライダーであるが、
導入以来使われたのは、佐助がかすがに渡した一つだけである。
その件に関しては、佐助もうすうす自分の非を感じ取っており強く反論できない。
それでもどうにか!という態度を見せる佐助を、
普段からこれぐらい熱く滾れば良いものを。と思いながら幸村はぴしゃりとはねつける。
「とにかくそのようなものには金は出せぬ!
 上田の家計も厳しいのだ!」
最早取り付くしまもない状況に、佐助は大いに拗ねながら立ち上がる。
「っ、あーそーかよ!旦那のわからずや!もう、知らねー!」
そう言うと、ずかずかと部屋を出て指笛を吹く。
その音に呼応するように、空の向こうから黒い鳥が飛んでくるのが見える。
焦る幸村。
「お前、どこに!」
「しばらく有休溜まってたからね!
 ちょっと、お休みいただきます!!俺様がいなくなってありがたみを思い知ればいいんだ!」
佐助は子どものようにあっかんべーをしてから、飛んできた鳥の足に捕まる。
佐助のその態度に幸村も頭にきたらしく、
「っっっ!!誰がそんなもの!
 良いわ!しばらく暇を出す!どこへなりとも行ってしまえ!」
と言って縁側に背を向ける。
「はいはい。俺がいないからって寂しくて泣かないでよねー。」
そう言うと佐助は地を蹴り、黒い鳥と共に飛び立った。
遠ざかっていく気配を背で感じながら、幸村は「誰が泣くか。」と小さく呟き、
部屋に戻ると音を立てて障子を閉めた。


― 幕。 ―
作品名:上田城、給料事情 作家名:キミドリ