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プライスレス

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ひとりの女にプレゼントした安物の指輪をめぐって、刃傷沙汰になったことがある。
震える手で刃物をむけてきた女に、かすり傷程度の怪我しかしなかった自分は本当に運がいい。
浮気した自分が悪いと言えばそれまでなのだが、消えない痕を腕に得たそれ以来俺、田中トムはひとつのことを決めている。
それは、後に残るものはプレゼントしないということだ。
思いが覚めても物は残る。その場合大半いい方向に物事は動かない。
同じ値段で飯を食う事もできる。思い出はプライスレスだ。それでいて忘れることも、なかったことにもできる。
だから静雄とつきあうようになっても、クリスマスだの誕生日だのにプレゼントをあげたことはない。男同士だからそうなるのも楽だった。少なくともあの日ではそう思っていた。

ある日、静雄の家に行った。さっき飲んだビールでいつもより酔っているのを自分でも自覚している。
給料日後の休日前は、軽く居酒屋で飲んで帰ることが多い。
今日は池袋の東口の方の安くて騒がしい居酒屋で飲んで、静雄のアパートの方が近いので泊まることになったのだ。静雄の家に来るはもちろん初めてではない。後輩の家としても、恋人の家としても。

「大丈夫ッスか」

覗きこんでくるブルーのサングラス越しの目はまったく酔っていなかった。失敗したと思ったのは飲んでいる途中で、自分が奢りだと先に言った場合静雄の飲むペースはドカンと落ちる。もっとも、そういう人慣れしない妙な気まじめさも含めてかわいいのだが。
それに比べると今日自分は少し飲みすぎた、だろうか。気分がふわふわしている。
静雄の家は相変わらず普通だった。キレなければ性格は至っておとなしく、普通。そのことを、ぶっ壊れたいくつかの家電の残骸と半端に片付いた部屋は見事に体現している。

落ち着いたところでタバコを吸おうとしたときにポケットを探したら、ライターがなかった。どのみち100円だから構わないのだが、居酒屋に忘れてきたのかも知れない。そのとき、視界に置いてあるライターが入った。低めのチェストの上に置いてある。その上は片付いていて、なぜか下にはティッシュが敷かれていた。

「静雄、そのライター借りていいか?」
「あ、待って下さい。こっち使ってもらっていいすか」

静雄は傍のテーブルに水の入ったコップを置くと、かけてある自分のバーテン服のポケットを探った。

「こっちは使っちゃだめなの?」

ライターは見れば見るほど普通の代物だ。普通じゃない。普通以下だ。新品というわけでもなく傷もあるし古いし、透けて見えるオイルも半分くらいしかない。今静雄に手渡されたライターと、物の見分けはつかなかった。

「覚えてねえッスか」
「あ?」
「…トムさんがくれたんですよ」

まさか自販機だのゴミ箱だのを投げ、電柱やガードレールをひっこぬく『池袋最強』のものとは到底思えない繊細さで静雄はその安いライターを指で辿った。
ものすごくおぼろげな記憶がよみがえる。中学校の帰りの土手。夕陽。煙草をせがむ、体感的に今の半分くらいの静雄と、吸っているのが見つかってやや苦しい状況の自分。

「わかったわかった、成人したら、これで吸っていいから」
「トムさんは成人してないじゃないっスか」
「トムさんはいいけどお前は駄目なの。成人してから使え、な?」

なんでも真似したがる静雄に、そのときライターを渡した。
中学生の2歳は大きい。どこからきたのかわからない尊敬を足したら余計に。
そういえばその頃はアメスピとか吸ってて、そういえばその後静雄が煙草を吸ったなんていう話は聞かなかった。
静雄はその頃から自分の言うことはよく聞いた。多分成人するまで吸わなかったのだろうと思う。

「女々しいッスよね…でも、離れてた間はなんかたまに持ってみたりして。笑っていい、ですよ」

静雄はバツが悪そうに、ふてくされたように言った。
笑っていいというが、そんな気にはなれなかった。静雄の純粋さはたまにくすぐったく、それでいて強い。
自分と離れている間も、こうして静雄の傍で自分は生かされていたのだと感じると、物っていうのも捨てたものじゃないなと思う。
布団の用意をしている静雄に声をかけた。

「おい静雄、明日までに欲しいもの決めとけ」
「はい?」
「買いに行くから。誕生日プレゼント」
「ずいぶん前に終わった上に、肉奢ってくれたじゃないッスか」
「いいんだよ。なんか買ってやりたくなったの」

静雄はきょとんとした表情をした。追い討ちをかける。

「ああ、決めねぇと指輪的なものになるから」

懲りない自分が笑えるが、刃傷沙汰にはなるまい。既につながれているのはどっちか、俺はもう知っている。

---終
作品名:プライスレス 作家名:裏壱