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つめきり2

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ぱちりぱちりと小さな音が部屋に響く。
体を丸めて足の爪を切る。
当たり前だが、皇帝になったところで爪が伸びるのも髪が伸びることも変わらない。
嵐のように怒濤の時間が過ぎようとも、俺の体は今までと変わらない時間の経過を辿っているのだから。
ナナリーと過ごそうとナナリーを忘れてしまっていようと、ナナリーを投獄しようと。
息が詰まる。俺は思考を断ち切るように爪を爪切りに挟む。
俺の感じる時間の感覚とは別に、俺の肉体は流れるままの時をその身に受けている。
髪はともかく、爪を誰かに切らせるようなことはしない。
本当に幼い頃は切ってもらっていたんだろう。けれどその記憶も曖昧だ。
二人で暮らすようになってからは、ナナリーの爪を切ってやりながら、その爪の形を整えてやるのが好きだった。
可愛らしい色に塗ったところでナナリーには見ることは出来なかったから、触ることでわかるように、ヤスリで整えて。
すべすべだ、と笑うナナリーがいとおしかった。
ささやかな、それが全てだった。

そういえば、スザクの爪を切ってやったこともあったな、と思い出す。
アッシュフォード学園の生徒会室で。
まやかしの平和と調和の中で騙し合い。
親愛の情があった。ナナリーとは別の意味でお前を俺の憎しみの連鎖には巻き込みたくないと思っていた。
けれど、憎悪、殺意。があってそれでもお前しかいないと思う一瞬があった。
全てを断ち切る前の、今はほんの僅かな平穏のようなものだ。
もちろん、心にわだかまる気がかりなことは沢山ある。
それでも、お前に託すことが出来るのなら俺はそれをこなすだけだ。
全ての未練をこの爪のように切り捨てていけたなら、こんなには苦しくなったりはしないんだろうなと思う。
切った爪は、生きている限り伸びる。
切り捨てたつもりになったところで、また。

言葉にしようか迷っていることがある。
それは長く自分の中にくすぶっていたものだ。
けれどそれを言葉に資格はもう、俺にはなくなってしまったような気もして、俺は僅かに自嘲する。
足の爪の全てが短くなった。
既に先に切り揃えてあった手を室内灯にかざしてみる。
きっとこの手は、もうスザクの腕を掴む資格はない。
それでも。


扉がノックされる。
「皇帝陛下」
気持ち悪いくらいにタイミングのいいスザクの声。
不意に、お前足の爪を切ったのはいつだ、と。
聞いたら、スザクはあの日のことを思い出すだろうかと思う。
あの、アッシュフォードでのまやかしの静けさと平穏を。表面だけはとても穏やかで幸せだったあの時間を。
そして憎しみを。
失意と嫌悪と憎悪とあらゆる負の感情に支配されたときでさえ捨てきれなかった微かなあの。
ああ、その淡く苦く消えてしまいそうな僅かに甘い感情を持て余していた自分の愚かさを思い出して俺は顔が熱くなった。
俺だけが抱えていたであろうその感情を。
拳を握り、深く息を吸って。
スザクの入室を許す声を出す。
ぱちりと、何かを切り落とすように。

end
作品名:つめきり2 作家名:しの