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ライカ

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白い包帯がゆらゆら揺れる。
ところどころ赤黒い染みの残ったそれを解くと、醜く引き攣れた肉と皮が目に入った。
跡が残ろうと残るまいと構わなかったが、こうして見ると滑らかな肌にたったひとつだけ存在している傷跡は異様で、青葉は顔を歪ませた。
こんな狂気の残滓なんて気にも留めていなかったのに。


「先輩、俺、痛いのは嫌いなんです」
「好きだったら君の人格を疑うよ」
じめじめした室内で二人畳に寝っ転がりながら発した言葉がこれだとは、いったいどういう了見だろうか。
「本当に嫌いなんです」
「・・・悪かったよ」
恐らく先日の暴挙のことを指してこんな厭味を言ってくるのだろうと帝人はあたりをつける。
未だ塞がりきっていない青葉の傷跡は、直視するには少々グロテスクなことになっている。
その言葉に目を閉じてしまった青葉はぼそぼそと「違うのになあ」と言ったようだった。
いまひとつ聞き取れなかったので無視をして、代わりのように当たり前の出来事をわざわざ言葉に出してみた。
「暑いね」
「暑いです。先輩、クーラーとか入れないんですか?」
「残念だけど、そんなものがあるように見える?」
「見えません」
ぽたぽた床に落ちていく汗が気持ち悪くなって、帝人は体を起こす。
虫が入ってくるのも構わず開けっ放しになっている窓からは生温い風しかやって来なかったけれど、それでも風が通るだけましだった。
「今朝」
はい?不思議そうな顔をして青葉も頭をもたげた。構わず言葉を続けることにする。
「今朝、正臣の夢を見た」
青葉の表情が固くなる。帝人はそれに構わない。
「園原さんと、正臣と、三人でいる夢」
そっと目を閉じた。辺りは闇一面である。夢の続きが見れるような、そんな気がした。
気がしただけだったけれども。
「夢なのかなあ」言った。
「夢なんですよ」言われた。
青葉くんがそう言うんなら、多分夢じゃないんだろうなとぼんやり目を開ける。
可愛い後輩の言うことは信用してる。けれど狡猾な彼の言うことはいつだって信頼に値しない。
両者の違いは辞書を引きたまえ、どこかの誰かの台詞を引用させて貰った。
「まあいいや、優先順位はダラーズのことだし」
親友のことさえ捨て置けるくらいには、ダラーズのことが大事だと明言したにも等しい。
「そんなにダラーズが大事ですか」
「大事だよ、当り前じゃない」
今更どうしたの?と帝人の視線が青葉に問う。
机の上に放り出された携帯画面にはDOLLARSの文字が躍っていて、それに並ぶようになんの変哲もない青のボールペンが寄り添っている。
なんとなしに帝人がボールペンを手に取ったのを見て、青葉は口を開いた。
「先輩って、ダラーズに恋しているみたいですよね」
かちん。
途端聞こえた軽いプラスチックの音に身震いする。
帝人はボールペンを眺めて、それからゆっくり顔を上げた。真っ暗な瞳がゆらゆら視線を彷徨わせて、やがてぴたりと青葉を見詰める。
かち、かち。
「おかしなこと、言うね」
ふふ、僅かに漏れた声とは正反対に目は笑っていない。
かち、かち。
手持無沙汰であるかのようにボールペンをノックする。
他愛ないその行動が、帝人が怒っていることを告げていた。
威嚇音、その単語がふと頭を過ぎる。
「僕はただ、自分のやりたいことをやっているだけさ」
かちん。
霜の下りたような静かで冷たい怒気を感じながら、青葉は口角を歪ませる。
「先輩、怒りましたか?」
わざとらしく訊いてボールペンを持つ手に引き攣れた傷跡の見える手を添えれば、帝人は溜息を吐いてボールペンを投げ捨てた。
「怒ってないよ」
「それは残念ですね。次はどうします?」
くくく、と喉の奥で笑いを噛み殺す。
くるりと円を描くDOLLARSのロゴを指でなぞり、青葉は帝人にお伺いをたてた。
帝人は僅かに相好を崩して、そうだねえとのんびり口を開く。次の言葉が出る頃には、二人とも先程の会話なんて微塵も記憶に残ってはいなかった。
作品名:ライカ 作家名:nini