Last Time
不意に、その時期を悟る。
ああ、時が来たのだ、と。
“―兄貴”
「―に、」
そこにいるはずの兄に声を掛け、愕然とする。
ああ、もう声もろくに出やしない。
「―――?」
なにか、音が聞こえる。
恐らく兄が自分を呼んでいるのだろう。
きっと振り向いただろう。
だから、問いたいことを問えばいい。
(…なあ)
(あんたは知ってるんだろう?兄貴)
(“あいつ”の、“本当の名前”)
思って、気付いた。
もうろくに声も出ないのに、何を問おうというのだ。
(ああ。)
(無様だな)
―逝く間際、惚れた女の名前を呼ぶことすら満足に出来やしない。