レシピの無い料理
正面の壁にかかっている時計は、数字と60分割の目盛り、それに長針と短針が滑らかに走る究極にシンプルな作りだった。
時計のある壁の右側は壁一面に整然と様々な本が並べられていて、左側は同じ大きさのモニターが整然と埋め込まれていた。様々な動画が流れていたが、消音されていて室内はキーボードを叩く音、マウスを操作するカチカチという音だけが流れていた。
十畳ほどの広くも狭くも無い部屋だったが、本棚とモニターがつくりつけになっているので、圧迫感は無く、寧ろ持ち主の几帳面さが伝わるレイアウトだった。
マウスの横の携帯電話に着信のライトが点灯した。
雲雀恭弥は伸びてきた前髪をかき上げながら手に取る。
ついでに、クッション性が高く体を包み込むような椅子に深く座り込む。
「一度、聞いてみたかったんだけど死ぬ前の気持ちってどんな感じ？」
受話器から漏れてくる声に口元を弛める。
「家光はもう奈々さんを連れ出したよ。あぁ、ウチのが見張ってる…。気をつけて死んでおいで。次に逢うときは、ボンゴレリング以外のリングを嵌めてもらうから」
返事があまりにも愉快だったのか、雲雀は声を上げて笑う。
「手をだすかどうかだなんて、随分余裕があるじゃない、ドン・ボンゴレ」
受話器から声が一度途切れる。そして長く切れ目の無い話が終わるまで、雲雀はあいづち一つうたずにじっと聞き入る。
「僕が時間に厳しい男だというのはわかっているよね。遅れるようなら、きみを死姦してみせるから。その途中で生き返るといい」
一度受話器を離してひとしきり叫ばせる。くっくと笑いが止まらない。
「——うん。気をつけてこっちは任せなさい。きみの大好きな“雲雀さん”に逢えなくて残念だね」
最後に、小さく呟いて通話を切る。タイムスケジュールを刻んだ特性の腕時計の時間を確認する。
マウスで、オフにしていたチャット画面を開く。
『起動』と入力して、エンターキーを一つ叩く。
全ての画面をログアウトして、パソコンの電源自体を落とす。
ドン・ボンゴレ、ボンゴレ10代目雲の守護者、ミルフィオーレ・ホワイトスペル第2ローザ隊隊長三人だけが知る、十年前のボンゴレ10代目ファミリーを未来へ呼び寄せる一か八かの大勝負が始まった。