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ダーチャにて 1

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ダーチャにて

 「花は好き?」
「それを俺に聞くのか」
「そうだね、愚問だったね」
 淡い匂いのような笑みをにじませながら、ロシアは大きな身を屈めて花を摘んでいる。その後ろ姿を、イギリスは眉を顰めて睨みつけた。決して洗練されてもいないし、自然の趣きがあるわけでもない、どちらかといえば雑然とした花壇だが、丹精込めて世話をされていることだけはわかる。好きで好きでたまらないとでも言うように、深爪をした不器用そうな太い指が、いとも優しげに要らぬ芽を摘み雑草を抜きとり、小さな蕾の載った茎を丁寧に選りわけて、鋏を使う。同じ手で、小国を押し潰し大国を脅かし、彼が自ら家族と呼ぶ同胞や実の姉妹をも、無慈悲に殴りつけ、抑えつけようとするのに、だ。
 「僕も、花は大好きだよ。もっと君のところの庭みたいに出来たらいいんだけど」
冬の間に枯れてしまうからね、と残念そうに呟く。
「お前なら、俺んちよりフランス風のが好みだろう」
ごてごてした飾りが多くて、という部分は口の中で飲み込む。
「そうかな。そうだね。でも君のお庭も素敵だと思うよ」
 テラスへと戻ってきたロシアは、花でいっぱいになった籠を大事そうに抱えている。控えていたリトアニアが、すかさず籠を受け取って、家の中に入っていく。リトアニアは、花籠の代わりに銀のポットを抱えて戻ってきて、二人の冷えた紅茶を交換した。渋みを感じる寸前まで濃く出された紅茶に、カップから溢れるぎりぎりまでミルクを注ぐと、ロシアがイギリス君はそれ好きだねぇと笑う。イギリスには何がおかしいのか分からない。
「後で菜園も案内してあげる。今夜はこの庭でとれた野菜の料理を振る舞うよ」
あ、勿論僕じゃなくてリトアニアがね、と言い足したロシアは、子供のように匙を口に押し込んで、ジャムを舐めた。
「なんだ、お前が料理してくれるのじゃないのか? ああ、お前には料理なんて無理か」
「もっと味の判る相手なら、やる気も出るけどねぇ」
君が相手じゃあね、とあのロシアが笑いもせずに真顔なものだから、イギリスは結構真剣に傷ついた。ロシアの料理の腕はそんなに悪くない、とフランスから聞いている。フランスには食わせても、俺には食わせられないのか。そう思うが、悲しいかな、そういう扱いには慣れている。
「甘いものなら、明日のお茶の時間に作ってあげるよ」
「ロシアにしてはいいサービスじゃねえか」
 どうしても素直に礼が口をつかない。しかしロシアはふふふと笑って呟く。
「イギリス君に褒められると気味が悪いなぁ」
「別に、褒めてンじゃねぇよ」
「いいサービス、だなんて。誰からも言われたことないから、嘘でも僕は嬉しいよ」
 両手でカップを惜し戴くようにして口を付け、ロシアがしんみりと言う。本心なのか社交辞令なのか、イギリスの目を以てしても、さっぱり解らない。解らないのに、孤独を愛おしむかのような様子に、イギリスの心は不本意に痛んだ。こいつに同情なんて、ましてや共感なぞ絶対にしない。そう自分自身に言い聞かせてみるが、その孤独を、イギリスもまた、よく知っている。
作品名:ダーチャにて 1 作家名:東一口