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ダーチャにて 2

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ダーチャにて

 これがダーチャか、とアメリカは目を見張った。ロシアがダーチャと呼ぶ別荘への招待を、やっとのことでもぎ取ったのだが、目に飛び込んできたのは、街中の邸宅に比べると余りにも貧相な農家だった。
 ただ、頑丈そうではある。敷地もゆったりと取られていて、いかにも田舎の農家、という雰囲気だ。玄関は観音開きの扉の取っ手に、鎖を巻いて南京錠がかかっているだけで、その錠前を外して、ロシアが扉を開けた。
 後について中に入ると、表から見たよりはマシな造りをしているので、アメリカは少し安心した。入り口で靴を脱ぐのは街の方の家と同じだ。刺繍の施されたスリッパにはきかえて、アメリカは改めてぐるりを見回した。ロシアが次々とカーテンを開け、窓を開いていく。湿気た臭いがすっと消えていった。
 温かい色調で揃えられた家具類は、古いがよく手入れされているのが一目でわかるし、かかっているカバーはどう見ても手縫い、手編み、或いは手刺繍のものと思われる。壁に掛けられた額はどれも色鮮やかな花の絵で、それらを眺めながらソファに腰を下ろすと、乾いた草の匂いがふわりと立ち上った。
「良い別荘じゃないか」
「お世辞はいらないよ。どうせぼろ小屋って思ってるでしょ」
「外で見た時はそう思ったけど、何だか居心地がいいんだぞ、ここ」
「あっそ。あんまりものを引っかき回さないでよ」
冷たく言い放ち、ロシアは奥へと消えていってしまった。仕方なくアメリカは部屋の観察を続けることにする。
 マントルピース、否、ペチカか、の上には白地に澄んだ青で絵付けされた陶器の人形が勢揃いしている。滑稽な髭のおやじや、ふくふくしいおかみさんに、少女に青年に動物に、一大集団だ。特徴的なマトリョーシカも戸棚にずらりと並んでいる。
 壁に飾られたタペストリーやファブリックは、古くなってはいるが細かな刺繍が施されていて、そのうちの1枚に何か見覚えがあると思ったら、ロシアと姉妹と、バルトの3人に、恐らくはプロイセンと思われる連中が図案になっていた。はっと胸を掴まれたような気がして、アメリカはまじまじとそれを眺めた。柔和に微笑んだ7人が、団らんしている様子を縫い留めている。刺繍の目の幾つかは綻びて、薄い色の糸は変色もしていたが、埃などは殆どついていない。大切に手入れされているのだ。
「それ、姉さんが縫ったんだ。昔にね」
「ロシア、」
 振り返ると、ロシアが茶器を運んできていた。ローテーブルにカップを並べながら、自嘲気味に言う。
「もうぼろぼろだけど、捨てられなくて。未練がましいね」
「そんなことない……と思うんだぞ。折角ウクライナが作ったんなら、捨てずに取っておいてやれよ」
「この家の掛け布や、敷き布はね、殆ど姉さんとベラルーシが作ったんだ」
「へえ、二人とも随分器用なんだな」
「昔はみんな家で作るのが、当然だったからね。雪が溶けたら毎週末ここにきて、みんなで畑仕事して、花を育てたり茸狩りしたり、野菜が収穫できたら冬用の漬け物を漬けたり、果物ができたら砂糖漬けやジャムにしたりするんだよ」
「へえ。じゃあ君の家で食べるジャムも、ここで育てた果物かい」
「そう。育てると言うより、森に入って採ったりするんだけどね。ああ、でもイチゴは作ってるよ」
 紅茶とはまた違うお茶の匂いに鼻をうごめかせると、ハーブブレンドティだよ、とロシアが説明してくれた。
「ここの庭で世話してるの」
「へえ、じゃあ君のお手製かい」
 アメリカが驚いてロシアの手元を覗き込むと、ロシアはちょっとアメリカを見下したように笑って、
「安心して良いよ。毒は入れてないから、まだ」
と嘯いた。
「そんなこと聞いてないんだぞ」
「ふふふ。それ飲んだら、畑を手伝って貰うからね」
「約束だからな。でも何をやるんだい」
「いっぱいあるから、安心して」
 ロシアのお手製ハーブティはほんのり甘い風味で、たっぷりと入れる蜂蜜によくあった。
「美味いんだぞ、これ」
「へえ、君に味なんて判るの?」
「勿論だよ! 君一体俺を何だと思ってるんだ」
「イギリス君の育てた子」
 反論のしようがなかった。
作品名:ダーチャにて 2 作家名:東一口