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近くて、遠い

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のどかな時間が流れるあるお昼下がりのこと。
ぺらり、ぺらりと日本が貸し与えた本の頁を捲っていた青年が肩を揺らして声を上げた。

「うん?」
「…はい?」

不意に向けられたみどりいろの双眸に、日本は小首を傾げた。すると相手は方眉を少しだけ跳ね上げて、あれと呟いた。

「今、呼ばなかったか?」
「……いえ」

短く否定を返すと、お互いの間に気まずい沈黙が流れる。彼は人差し指で頬を掻くと、そうかといって視線をそらしてしまった。
コチコチ、と日本の家に古くからある置時計の秒針が時を刻んでいく。その音が静まり返った室内にやけに響いて聞こえる。
日本は気まずさを誤魔化すように緑茶の入った湯飲みを手にとり、口元へ運ぶ。
この相手が不思議な発言をすることは、よくある話だがその度に舞い降りる沈黙がどうしようもなく痛い。
確か彼がはじめて日本を訪れた時に、風呂を先客と共にしただとか、こどもの声が五月蝿いだとかいっていた。
お国柄、なのだろうか。
幾分冷めてしまった緑茶をゆっくりと啜りながら日本は向かいに座るくすみがかった金髪の青年を見つめた。
彼とは長らく交流をしてきているが、未だ掴めていない部分も多い。
性格はわりと把握しやすかったのだが、彼が自身について語ることは極々稀だった。
庭弄りが好き。紅茶が好き。料理が下手で味音痴。雨が嫌い。
彼について知っていることといえば、大体このくらいだろうか。
本当に数えられる程度にしか知らない。
こんなにも近くに彼はいるのに、とても遠くに感じてしまう。
胸中で深いため息を零しながら、日本は湯飲みを置いた。
きっとフランスやアメリカは自分以上に彼を知っているのだろう。そんな彼らが羨ましくて、嫉ましい。
そんなことを考え、日本は思わず苦笑を滲ませてしまった。

「日本?」

微かに漏れた笑い声を拾ったらしい翡翠石のような瞳が再度、日本へと向けられた。
あぁ、綺麗な色をしている。澄んだ深い湖のようだ。決して、自国の民ではお目にかかることの出来ない色だ。
その瞳が、日本を捉えて映し出す。

「何か可笑しなことでも…―――」
「いえ、…いえ。少々自虐に浸っていました」

すみません。問われて、日本は眉尻を下げて笑って見せた。どうか、お気になさらず。次いで告げると、彼は一瞬唇を開きかけたが、すぐに引き結んで小さく頷いた。その際に、みどりいろの双眸の中で水面が揺らいだように見えたのだが、気のせいだろうか。

「イギリスさん」
「なんだ?」
「もうじき納涼祭があるのです。よろしければ、ご一緒していただけませんか?」

名を呼べば、伏せられていた瞳がすぐにこちらを見る。
イギリスは日本の誘いに笑って応じた。喜んで、と。
日本はその笑顔に目を細めて、有り難う御座いますといって同じように微笑んだのだった。




作品名:近くて、遠い 作家名:アキ