アドレス
ああもうこの携帯だめなんだなあと思った。電池はすぐ切れるし電源なかなか入らない事あるし、充電してたら異常に熱くなるし。
買い替え時だと思い立って店頭のディスプレイを覗いていたら、短いスカートを履いて風船持ったお姉さんに「買い替えですか?」なんて声をかけられる。
本気でぶっ壊れる前にデータの移行もしたいし、なんて思って。
カウンターに座って自分の携帯を差し出すと、店員サンがものすごく渋い顔をして何か調べ始めた。
「この機種ちょっと古すぎて、中のデータ移せないんですよー…」
そんなに古かったかと、家に戻って記憶を辿る。
新しい番号とメルアドを一斉送信したら何通か戻ってきてしまった。名前を見れば思い出せないような名字の奴もいた。
そんな中にたった一人
古い友人の名前を見つける。
あれから何年経ったんだろうか。兵助がいなくなってから携帯を変えていなかったのだとしたら、確かにこの機種古い筈だよ。
消せなかったんだ、お前のアドレス。
名前に誕生日付けただけの素っ気ないアドレス。
「会いたい」って打ったら宛先不明で戻ってきて、分かってたけど消せなかった。
なあ兵助、俺さ、携帯変えたよ。お前へのメールも戻ってきちまった。
これでほんとにバイバイなのかな、俺さ兵助、
お前のアドレス消せなかったよ。