perceive
ちがう、とカイムは唇を動かす。その思いは音にはならず、胸の深いところをじわり、じわりと侵していった。
そうだ、あいつは光となって空高く消えていった。
ならば雲を縁取るあの輝きが。南中に君臨するあの光が。
……まるで、迷子になった幼子だな。
カイムは自嘲した。胸に広がる寂しさも心細さもごまかせない。それだけでなく、あるはずのない姿を必死になって追うなど。
……一体、何をしているのだ。
まったくだ。どんなに見上げてもそこに見出せるはずがないというのに。
馬鹿者。
懐かしい言葉に、ようやくカイムは心の“声”が己のものでないことに気づいた。
“声”は溜息をつく。それはあざけるように響きながらも、どこか暖かい“声”。
眼前の事象に囚われる幼き存在よ。遠きを眺むるよりも感ずべきものがあろう。
左胸が疼いた。どくり。どくり。ここだ。ここだ。
それは狂おしいまでにあたたかい鼓動。途方に暮れるようにして空に探したもの。
そっと、鼓動の上に手を置く。そしてカイムは満ち足りたように柔らかな笑みを浮かべ、静かに目を閉じた。
そうだ、我は、ここに、在る。
少女は気づく。男の心が和いだあの日から、男は空を見上げることがなくなり……
かわりに、祈るように手を胸にあて、頭(こうべ)を垂れるようになったことに。