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そして今日も空が青く

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「なーにやってんのギルちゃん」
「・・・・・・・・・」
「『うわっ最悪な奴来やがった最悪だなこれ絶対何やってるって聞かれるなうわマジでクソ最悪だなあークソ』って考えたでしょ。『最悪』って3回は思ったでしょ。もう聞かれたのに何やってるって聞かれるって思ったでしょ」
「あーうっせえ大方合ってるよハイハイ。『クソ』は3回思ったよ。とりあえず黙れ」
「そんなっギルが素直に負けを認めるなんて! バイルシュミット家の誇りはどこへやったの! お兄さんルートになんて言い訳したら・・・」
「うるせえだから静かにしろって!! 馬鹿!!」
  ギルベルトは乱暴に手を伸ばすとフランシスの口を塞いだ。勢いがありすぎて若干痛かったが、それでも、こういうときに無闇に暴力(といっても、頭を軽く叩くくらいだったが)に訴えなくなったのは、最近の話である。何が彼をそうしたのかをフランシスは知っている。それはとても良いことであることも、知っている。
 空いている方の手で人差し指を立て必死の形相でシー、と似合わないポーズをするものだから、フランシスは不思議に思って首を傾げた。
 すると、ギルベルトは少し躊躇ったのち、一つの教室を指差した。
 音楽室である。
 何があるのかと、ギルベルトの方を見やると、目を反らされた。何やら顔が赤い。
 仕方がないので、何やらそこから聴こえてくる音に耳を澄ますことにする。
 繊細なピアノの音と、上手い、とまではいかなくとも、楽しそうに歌う声。
「・・・ひょっとしなくても、エリザ?」
 ギルベルトは目を合わせることなく黙って頷いた。そっぽを向いて、耳が少し赤い。
 校舎の壁に寄りかかると、フランシスはすーっと腰を降ろした。地面に座り込むことに今更躊躇いはなく、それが同様のギルベルトも、つられて横に座った。
 男2人黙って地べたに座っている様は何とも滑稽なような、不憫なような。
「違う」
「はいはい」
「俺の好きな曲なんだよ」
「はいはい」
「ピアノはもっと音が多くてフェルマータは伸ばすんだよ」
「はいはい」
 黙れ、と言ったのはそっちだというのに、とは言わず、フランシスは相槌を打つ。
 やがてギルベルトも黙り込み、暫く聴き入った。
 フランシスは横にいるギルの表情を盗み見ると、立ち上がって言った。
「さてお兄さんは教室に戻ろうかな~。次、移動だから遅れるなよ」
「・・・」
  フランシスが立ち去ったあと、ギルベルトはまだ1人で座っていた。曲は既に違う曲になっている。これも自分が好きな曲だ。本当だ。ギルベルトは、このピアノの音色が誰によるものなのかわかっていた。彼女が弾いてくれと頼んだのだろう。そんな光景を思い浮かべなくとも、充分やり場はなかった。
 彼女の声の響く傍らで、頭の中で声がする。
 それのあまりの鬱陶しさに、ギルベルトは両手で自分の頬をパン! と叩いた。
 力の加減を計らずだったせいで思ったよりも痛くなった頬に訳もなく手をあてると、はー、とため息を吐いた瞬間、午後の予鈴が鳴った。フランシスの言葉を思い出す。移動? そして更に思い出す。体育だ!
 幸か不幸か(といっても、後で必ず思い出す質の彼にとっては、どちらでもないのかもしれない)、それまでの思考の一切は吹っ飛び、ギルベルトは慌ててその場を後にした。
作品名:そして今日も空が青く 作家名:若井