嘘が本音
「先輩方って仲良いですよねー…」
言った直後、反転した世界の横からティッシュ箱が飛んでくる。それを投げた人間は二段ベッドの上にいる男。
「あぁ~?蓮川…お前なんだいきなり藪からぼーに」
光流先輩である。
短い丈のジャージからのぞく生脚が眩しい(蓮川には全くそのケはないが)。色素の薄い柔らかそうな髪と睫毛を全部抜いたとしても30秒で生え変わる驚異の整った顔立ち。
「バカなのか?おりゃっ!」
「いででででででッやめてくださいぃい!」
それでこの性格。
ほんといい性格してるよな、と、蓮川は股間からやっと足を退けた光流を恨みがましく見つめる。
「なんだよ。気持ちわりーな」
「ほっへをひゃっはわらないでくわさひ」
「さて、蓮川」
突如、凛とした美声が響いた。
「俺と光流が仲が良いのが、どうしたって?」
忍先輩である。
今の今まで蓮川の呟きを無視しときながら、また掘り返す。
忍らしいやり方だった。
キィ、と椅子を回転させた忍は、床に転がった蓮川と光流に笑いかけた。
「なんだ、お前ら二人して固まって」
持っていたシャーペンを置き、忍が立ち上がる。
そして、おもむろに胡坐をかいた光流の前に座りこむと、その顎をそっととった。
「好きだぜ、光流…」
「…俺も、忍…」
「それ!やめてください!」
蓮川が全力で二人を引き離した。
目の前の光景にまた白目を向くところだった。
忍が「お前が振ったんだろ」、と、真顔でのたまう。
「振ってませんよ!先輩たちのそれ、全然面白くないですからね」
「ふむ」
「精進せねばな」
「いっいらないですって!ていうか、忍先輩がなんか本気くさくていやなんです!」
一瞬、虚をつかれた表情。しかし、忍のそれはすぐに元の飄々とした顔に戻った。
「忍。お前本気なのか…?…ふ、俺も本気だぜ」
「光流………」
「もーやめてくださーい!!」
グリーン・ウッドは今日も平和。
「蓮川は、あれで案外鋭いなぁ」
「は?」
「いや、こっちの話」
頭を撫でられながら、光流は首を傾げた。