ゆれる
ばかだなぁ、と。誰が?俺がですよ、はいはい俺です。あっちだこっちだと俺の手を引くそいつの髪がきらきらと光ってまぶしくて、はいはいお姫様のおっしゃるとおりーと茶化したら青い髪を揺らしてきっとこちらを睨んだけれど、「お前、今のその言葉、忘れんなよ?」にやり。いやな予感がしなかったかと聞かれれば、そりゃあまぁしたけども、なんつーか、この程度で俺を負かした気になっているこいつは、「なあに、下も見れないとかお前もかっわいいとこあんじゃねーの?」お前がな!しかしそれは音にならずぐうと腹に吸い込まれていった。大声を出すと揺れる気がしたなんてそんなまさか。日向が俺を見てげらげら笑うそれさえ憎たらしいが黙られたら黙られたで何か喋れよ!と叫んでしまいそうな気がしくも、ない、ない。はぁ、この小さな箱に閉じ込められてからずっと詰まらせていたそれを吐きだした。日向の視線はもう俺から外の景色へと移っていて、おおーっだとかへぇーだとかよくわからん声をあげてる、ちくしょう、楽しげな横顔にこれが無ければ絶対乗らねえのに、と。それにしても、観覧車、なんて。ベタにも程があるというか、俺も日向も男な訳で。傍から見たらこれ罰ゲームにでも見えんじゃねーの、それともコレに見えんのか?まぁ、そうなんだけど。俺がこんなんじゃなければ珍しくこんな恋人らしいことをしたがるこいつに純粋に付き合ってやることできたんだけどな、いや、そしたらこんなん乗らねえか。ふ、と。俺の高所恐怖症を言い訳、に?あれ?いくら俺が怖がる姿が見たいからって野郎と二人で観覧車なんて、ちらり、日向の方を見れば、日向も俺を見ていたらしくばちいと視線がかち合う。にぃ、ひどく楽しげに笑ったそいつはこれでもかと勢いをつけて俺の隣へ、がこん、揺れる、どくん、揺れる、ぐらんぐらんの視界で捉えた日向の頬が、すこし、赤い気がして、思わず引き寄せる。がち、と歯が当たったけれどかまうもんか、大げさに跳ねた日向の肩に縋るようにして体を寄せた。世界はまだ揺れている。引っこんで出てこようともしない舌を強引に引き出せば、リップ音の隙に漏れるんうんうと苦しげな声ともつかないそれに、ああ、やばい、勃つ、かも。ちゅう、わざとらしいく日向の下唇を吸って離してやれば、はあはあと荒い息に肩を揺らして信じらんねえって顔。してやったり、と言うには残念ながら俺の膝は大爆笑だ。まだ揺れてる、こわい、でもすっげえ興奮する、吊り橋効果ってやつ?俺が一体今どんな顔しているのかはわからないが日向が俺の胸を押しながら後ずさっていく、ばあか、こんなとこに閉じ込めたのはお前なんだから。もう一周、しよっか?ぷつり、切れた吊り橋の先、落ちていく、ふたり。