静帝で時かけパロ
キヨスクのスポーツ紙に書かれた日付を見つけて帝人はくらりと眩暈がするのを感じた。
新聞の上隅には確かに小さな文字で8年前の日付が書かれていた。
ざっと計算しても帝人はまだ小学生のはずだ。
夢を見ているのかと頬をつねってみても痛みがかえってくるだけだった。
改札から人がどっとあふれて池袋駅の構内で呆然とつっ立っていた帝人の前を無情に過ぎ去っていく。そういうところは変わらないのだ。見渡す景色は確かに見慣れたものとは少し趣が違った。大勢の人が通り過ぎて行った自動改札も古い形式のものだ。歩く人々の服装も、なんだか少し流行とは違う気がした。
何が起こったのかわからないまま、帝人は途方にくれてしまった。手にしていた携帯の電波も通じない。所持金も心もとない。二日くらいならなんとかなるかも知れないと思ったが、そもそも8年後の金を使うことができるのか。家族にも、友人にも連絡を取れない状況で、頼るべき人の顔も浮かばなかった。
しいて考えるなら、帝人がこんな状況になる直前までネットで連絡を取っていた九十九屋なら何かわかるのかもしれない。彼が8年前も似たような稼業に従事しているのかはわからなかった。電話番号もメールアドレスも知っているが、それが今も使えるとも思えない。ためしに公衆電話から電話をかけても、受話器からはコール音が鳴り響くだけで、何の反応もない。
不安でがくがくと震える手から受話器と携帯電話が落ちてしまった。携帯電話を拾おうと下を向いた瞬間、ぽたりと涙がひとつ地面に落ちていった。それがきっかけになって、じわりと目じりが熱くなり、涙が眼にあふれた。思わず屈みこみ、帝人は震える体をぎゅっと抱きしめて涙が零れおちるのを耐えた。一人ぼっちがこんなに怖いものだとは思わなかった。
「おい!お前、電話使い終わったならさっさとどけよ……うずくまって、具合でもワリィのか?」
「静雄、ちゃんと順番があるんだから人を脅しちゃ駄目だろ?」
「ちげえよっ!こいつが電話終わったのに出て来ねえから……」
聞こえてきた声に顔を上げると、電話ボックスの入口には来良高校の制服を着た平和島静雄が立っていた。