ボカロと一緒。番外編
side:マスター
学校から帰宅し、俺は、玄関の鍵を開ける。
「ただい・・・」
「お帰りなさい!マスター!!」
靴を脱ごうとした瞬間、抱きついてきた影を、半歩下がってかわした。
「「マスター!おかえりなさーい!!」」
その直後、二つの影が同時に俺に飛びつく。
ぐえっ。
「だからああああああああああ!!お前らも飛びつくなって言ってんだろ!!バカイトの真似すんな!!!」
飛びついてきた影を、引き剥がそうとすると、
「マスター酷い!!俺は、バカイトじゃないですよ!!」
「マスター!俺の練習の成果聞いてー!!」
「レンずるーい!!マスター、あたしもー!!」
だあああああああ!!一度に喋んなあああああああああああ!!!
「いいから、全員居間にいけ!!俺が着替えてくるまで、発声練習!!分かったか!!」
「「「はーい!」」」
三人揃って手を上げると、どたばたと居間に走っていった。
・・・ここは託児所じゃねーんだぞ・・・。
げんなりしながら、俺は二階に上がる。
先日、従姉から「彼氏の買ったリンレンの調整をお願いします」と、電話がきた。
「自分でやれよ」と突き放したかったのだが、どうせ粘りに粘られるだけなので、仕方なく引き受けた。
まあ、たかがソフトだと高をくくっていたら。
・・・何で、従姉のところを経由すると、実体化してくるのだろうか。
変なウィルスでも飼ってんじゃねーかと思いつつ、俺は楽譜を片手に、一階に降りる。
居間から、にぎやかな声が聞こえた。
最初こそ、「俺の方が歌がうまいんです!」「アイスはあげませんよ!!」と騒いでいたバカイトだが、あっという間に二人と仲良くなって、今では三人でよく遊んでいる。
まあ、精神年齢が同じくらいだから、丁度いいんだろう。
ちなみに、リンレンは俺を「マスター」と呼ぶ。
従姉の彼氏が本来のマスターだろうと指摘したら、「『お兄ちゃんと呼びなさい』と言われました」と、返ってきた。
・・・なんか、もう、うん。縁切ろうかな、従姉と。
居間の扉を開け、三人に声を掛ける。
「三人とも、ちゃんと発声してr」
「くらえ!必殺裸マフラー!!」
げしっ!!
俺の飛び蹴りが、コートを脱ぎかけたカイトの脇腹に入った。
壁際まで吹っ飛んで、声もなくうずくまったカイトの姿に、リンレンが怯えたように抱きあう。
「・・・あー、前にも言ったはずだが、「うろたんだーごっこ」をするのはいいが、裸マフラーは禁止。分かったか?」
「・・・・・・・・・」
「返事は?」
「「い、イエス!マスター!!」」
素直でよろしい。
直立不動で敬礼するリンレンに、俺はにっこり笑って、
「よし。じゃ、発声からな。まずはレンから」
「え、あの」
「練習の成果を見せてくれるんだろ?」
俺の言葉に、レンはがくがくと頷くと、恐る恐る前に出てきた。
後ろでは、リンが「レン頑張って!」と小声で囁いている。
俺は、ぽーんとピアノを鳴らして、
「はい、ドー」
終わり
作品名:ボカロと一緒。番外編 作家名:シャオ