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ラストゲーム

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一人屋上からちっぽけな校舎を眺める。
吹き付ける風に乱れる髪にほんの少し顔をしかめ、臨也はただ一人の人物を追っていた。
身長が高く目立つその人物が誰かに話しかけられ笑みを浮かべた瞬間、錆びかけた柵を蹴る。

「化け物の癖に、何普通の人間みたいに笑ってるの?」

――自分には決して笑いかけてなどくれないのに

急に心臓を掴まれたような激痛が前進を駆け抜け、足元から崩れ落ちた。
熱されたコンクリートに打ちつけた体の痛みなど感じないほどに胸の辺りが痛み、呼吸すら出来ない。
痛みは数分続き、そして和らいでった。春の健康診断では何の異常も無かった自分の体の異変を、臨也はどこか自分のことではないように感じていた。

――死ぬかもしれない

当たり前のように今日が終われば明日が来るのだと思っていた。
喧嘩をしながら、姿を追っていたあの人物とずっと一緒にいるのだと、さっきまでは思っていたのに。

「そう、もうすぐお前は死ぬよ」

「シズちゃんっ?!」

聞きなれた声に振り向くと、そこには和服姿に似つかわしくない大鎌を持った男――平和島静雄と同じ顔、同じ声の男が立っていた。

「…なにそのコスプレ…死神に和服っておかしいし…」

「俺は平和島静雄じゃない。死神No、156420138。知り合いの死神は津軽と呼ぶが、本来俺たち死神はナンバーしか持たない。それにしても、本来なら死神の姿は見えないはずなんだが…たまにお前のように見えるものもいるな」

臨也の言葉を遮った男をまじまじと見つめると、影が無いことに気づいた。

「死神って…冗談でしょ、俺が死ぬって言いたいわけ?」

ズキン、とまた胸が痛み、臨也は整った顔を苦痛に歪めた。
呼吸できなくなるほどの胸の痛み――心臓を患ったことは臨也も理解していた。しかし、医療先進国において、金にさえ糸目をつけなければ助かるかもしれないと思っていたのも事実だった。
死ぬかもしれない、でも治して生きられるかもしれない、と。

「冗談は言わない。お前は今日から7日後死ぬ。心臓が原因で」

津軽はそっとと臨也の心臓に触れた。今は規則正しく鼓動を響かせているものは、既に取り返しが付かないほどに蝕まれている、と小さく呟く。

「病院で治療を受ければ――」

「無駄だよ。死と言うのは決定事項で…もしお前が心臓移植を7日以内に受けたとしても、その決定は覆らない。死因が変わるだけだ。俺たちはリストどおりに、死ぬ人間の魂を回収するだけだ」

臨也の顔から血の気が引いていく。
当たり前のものが当たり前ではなくなる。
あとたった7日の命という宣告に、無様なほど体が震えた。
今見ている景色すら、もうすぐ見られなくなる。平和島静雄と死という絶対の別離が迫っている。
耐え難いほどの絶望。

きっと平和島静雄は、臨也が死ねば忘れていくだろう。
ただの思い出になって、思い出も色褪せて、いつかは名前すらもおぼろげな存在にまで成り下がる。
臨也は死ぬのに、化け物のような力を持つ男は不思議と人に愛されて――幸せになるのかもしれない。
その時隣にいるのは、決して自分ではないのだという未来に、頭の中が黒く塗りつぶされる。
消えない傷を、褪せない思い出を、どんな日常、どんな非日常にあっても常に臨也を忘れないようにするために、手段を厭わないと決意した。
手に入れる、あの男を。
作品名:ラストゲーム 作家名:氷迫律