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主人は只今出かけております。

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(はあ……つまんないな)

僕はご主人様の机の上をゴロゴロ転がりながら溜め息をつきました。
――僕の名前はミカデン。竜ヶ峰帝人様の携帯電話です。
今日、ご主人様は学校に出かけていて不在なのですが、つい寝坊をして僕を持っ
て行くのを忘れてしまったようなのです。
携帯を携帯しなくてどうするんだ!とツッコミたいのはやまやまなのですが、僕
にはご主人様のような冷徹なツッコミは出来ないので、未熟なツッコミを見させ
るわけにもいかず、恥ずかしさから毎回ぐっと堪えています。
あーあ、いつもならご主人様と一緒に居られる時間なのに…そう思うとなんとも
言えぬ寂しさがこみ上げてきて、僕は何度目かの溜め息を吐き出しました。

「溜め息ばかりついてると幸せ逃げちゃうよ?」

僕よりも低い声がいきなり聞こえてきて、僕は肩を跳ねさせました。
今はこの部屋には僕とあの子しか居ないはずなのに、その声はどちらのものでも
ありませんでした。
寝転がっていた上体を起こし、声がした下方を覗き込めば、床に胡座をかいてい
る青年が目に入りました。

「やあ、ミカデンくん」
「えっ、イザットさん!?」

僕に片手を上げて挨拶してきたのは、ご主人様の恋人のジャケットであるイザッ
トさんでした。
そう言えば、ご主人様は昨日この部屋でことに及んでいたな……と思い出すと同
時に頬が熱くなってきます。
仕方ないじゃないですか……僕、そういうことには免疫ないんです!

「そんなに驚くことないじゃないか」
「驚きますよ……何で貴方がここに居るんですか?」
「いやあ……臨也の奴、俺のこと置き忘れちゃったみたいでさ」
「え……大事にされてないんですね」
「……まあねー。代えはいっぱいあるし」

『酷い!ミカデンくんの馬鹿!』とか、そんな類の返事を返されると思いこんで
いた僕はイザットさんの予想外の反応に困ってしまいました。
とにかく、謝らなくては……そう思い、乗っていた机からピョンと飛び降りてイ
ザットさんに近づいたのが間違いでした。
近づくと同時にイザットさんは僕に抱きついてきたのです!

「え、ちょ、イザットさん!!??」
「ねえ、ミカデンくん……俺達も臨也たちと同じことしてみない?」
「同じ、こと……?」
「うん、優しくするから。ね?」

イザットさんが、ね?と言うと共に僕の視界が反転しました。
どうやら押し倒されているようです。
イザットさんのことは嫌いではないのですが、そんなことをしたいような気持ち
があるわけではありません。
なので抵抗を……抵抗、を……したいのですが、イザットさんに抱きしめられて
いるとあったかくて、ぽかぽかして、つい気がふにゃっと緩んでしまいます。
イザットさんには不思議な包容力があるようです――ジャケット故でしょうかね


「イザットさん……」
「ミカデンくん……」

イザットさんの顔が僕の顔に近づいてきます。
――あ、流される……。
と、思ったとき、急にイザットさんの動きが止まりました。
そして頭上から、イザットさんよりも高く、どす黒い声が聞こえました。

「ミカデンから離れてください。この万年発情期野郎が」

恐る恐る顔を少し動かして、そちらを見れば、案の定あの子が立っていました。
――ご主人様のボールペンである、ミカペンが。
ミカペンは笑顔を浮かべているものの、その瞳はまったく笑っていないようでし
た。
そんなミカペンにイザットさんは僕から離れました。
よくよくイザットさんを見てみると、ミカペンの尖っている長く伸びた爪がイザ
ットさんの目前に構えられていました。
ミカペンは時おり爪を鋭く、そして長くして、人や物を刺します。
いやはや、恐ろしい能力です。

「あ、あのさ、ミカペン……爪、どかしてくれないかな?」
「……どかしてあげますから、ミカデンに手を出さないでくださいね」
「それは約束できないなあ……」
「貴方が臨也さんに使われているときの間抜けな顔の写真、ミカデンに頼んでネ
ットでばらまいてやってもいいんですよ?」
「ひっ、酷いよミカペン!」
「ハッ、知りませんよバーカ」

イザットさんが臨也さんに使われているときは、イザットさんは臨也さんの首に
しがみついておぶさられていなければなりません。
その姿は、間抜けなことで僕らの間では少し有名です。

「……あんまり苛めたら可哀想だよ、ミカペン」
「……ミカデンは優しすぎるんだよ。そういうこと言ってるからイザットが直ぐ
に調子に乗るんだよ」
「別に俺調子に乗ってないよ!!??ミカデンくんが好きだから……構いたいだけだ
し。ミカデンくん友達多いし、俺なんか眼中にないかもしれないけど……」

俯きながらそんなことを言うイザットさんに、不覚にも僕の胸は高鳴ります。

「ミカデンはお前なんかに渡しません!」

ミカペンはそう叫ぶと、僕に抱きついてきました。
――え、なにこの状況。

「顔がミカデンくんと同じで、同棲してるからって調子に乗らないでよ、ミカペ
ン!」
「僻んでるんですか?キモッ」
「はあ?僻んでなんかないんだけど?」

ミカペンが僕に抱きついている上に更にイザットさんが抱きついてきました。
あ、暑苦しい……。

「ミカデンは僕のです!」
「ミカデンくんは俺のなの!」

嗚呼、もうどっちでもいいんで離れてください!

「ミカデンは僕の方が好きだよね?」
「ミカデンくんは俺の方が好きでしょ?」

二人に一斉に質問を投げかけられると同時に扉の開く音。

「ただいまー」

どうやらご主人様が帰ってきたようです。

「ご、ご主人様が帰ってきたから二人共離れてください!」
「「やだ」」
「こんなとこだけ意気投合しないでくださいよ!」

近づいてくる足音を聞きながら、僕は必死に二人から離れようともがき始めるし
かありませんでした。