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old days

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これは、臨也がまだ池袋に居た頃の話。

「シズちゃん、別の席に移動してくんない? 俺の視界に入らないで欲しいんだけど」
「あぁ!? 手前が動けばいい話だろうがノミ蟲!!!」
カウンター席に並んでいがみ合う旧友二人のやり取りに、門田は大きく溜め息を吐いた。そして小声で交わされる目の前の二人のやり取りにも、同じく。
「見て見てゆまっち! あれが巷で噂のボーイズでラブってる二人だよ!」
「ちょ、聞こえますって! 何でそうなるんすか、あの二人は今の今まで殺し合ってたとこですよ!?」
「馬鹿だねゆまっち。天敵同士と見せかけて実は裏では恋人同士なんだってば」
「マジで自重してくださいよ、バレたらこっちまで殺されますって……」
再び漏れそうになった溜め息を抑え、門田は軍艦巻きを口に放り込んだ。

渡草と別れた門田たち三人が露西亜寿司で夕食を取っているところに、喧嘩終わりで傷だらけになった臨也と静雄がサイモンに連行されてきたのだ。そのサイモンは二人を座らせて寿司を出すとさっさと厨房の奥へ引っ込んでしまい、危険を察知した賢明な客たちも速やかに帰ってしまった。今店内に残っているのは、カウンター席で隣り合いながらも口喧嘩を続ける戦争コンビ、それに少し離れた座敷のテーブルに着く門田たちだけだった。

「野蛮なシズちゃんが標識とか振り回したせいであちこち怪我して痛いんだってば。あ、お詫びにその大トロちょうだい」
「はぁ? あっ、手前何勝手に食ってんだよ! ふざけんな!!」
「うるさいなぁ、ガキのシズちゃんには大トロなんてまだ早いって! ほら、俺の玉子あげるから」
「いらねぇよ! 馬鹿にしてんのか手前、殺す殺す殺す殺す殺す……!!」
高校も卒業したというのに相変わらずだなと呆れながら、門田は騒がしい同級生たちの後ろ姿を眺める。彼が自分と新羅の数々の苦労を遠い目で回想していると、囁き声ながらも興奮した様子で狩沢が再び話し始めた。
「ぜぇったい天敵同士じゃなくて恋人同士だよあれは……! だってさ、あんな風にイザイザが子どもみたいに喚き散らしたり喧嘩したりするのって、シズちゃんとだけじゃん? ねぇドタチン、高校の時からそうなんでしょ?」
「……まぁ確かに、臨也の奴はいつも小難しい話ばかりするくせに、静雄との喧嘩となると決まって語彙が貧困になって『馬鹿』だの『死ね』だの『嫌い』だの叫びまくってたな……ああ、あれは仲裁するこっちが馬鹿らしくなるほど低レベルな争いだった……」
「へぇ……てか、臨也さんって今までよく生き残ってますよね……」
「幼児化したイザイザ萌える……やっぱりシズイザにしとこうかしら……」
三人それぞれが暫し感慨にふける。その間にも、自分たちが後ろの座敷で話題にされていることなど露知らぬ二人は言い争いを続けていた。

「黙れ死ね! 大体、好き嫌いする手前の方が何倍もガキじゃねぇか!」
「甘い玉子が苦手なだけだってば。シズちゃん甘いもの好きなんだからいいでしょ! よくファミレスで幸せそうにでっかいパフェ食べてたじゃん、一人で行くのは恥ずかしいからって放課後に俺を付き合わせてさぁ」
「そうだ、あの時だって手前は俺のパフェをちょこちょこつまみ食いしてきやがって……俺は全部一人で食べたかったんだよ!」
「かわりに俺のケーキ分けてあげてたじゃんか! その後宿題だって教えてあげたし!」

「……………………」
敵意を剥き出しにした荒々しい口調で語られた和やかな放課後エピソードを耳にし、門田たちのテーブルは何とも言い難い沈黙に包まれる。
「……狩沢さん」
「……何? ゆまっち」
「あの二人……普通に仲良しじゃないですか」
「……私もびっくりしてるってば。妄想はあくまで妄想のつもりだったから……」
狩沢と遊馬崎が何か問いたげな目で門田の顔を窺う。妙な居心地の悪さを覚えながら門田はそれに答えた。
「その……あいつらだって、三年間同じ学校に通ってたわけだからな。そりゃあたまには休戦する日もあったし、たまには二人でファミレスに行く日も……まぁ、あったんじゃないか?」
何の説明にもなっていなかったが、幸い、狩沢と遊馬崎もそれ以上突っ込んだことは尋ねてこなかった。珍しいことに狩沢も興奮するより予想外の気持ちが勝ったらしく、ぎゃあぎゃあ言いながら睨み合う臨也と静雄をまじまじと眺めるばかりだった。

そして、先程まで妄想を炸裂させていたはずの彼女が、何の含みも込められていない純粋な納得の声を漏らした。
「……あの二人ってほんとは仲良かったんだ。そうだよね、だって本気でお互いが嫌いなら、こんなとこでお喋りしてないでさっさと帰れば済む話だもんね」

彼女が最後まで言い終わった瞬間―――臨也と静雄の動きが、ぴたり、と止まった。それと同時に彼らの怒鳴り声も止み、騒がしかった店内は突如静寂に包まれた。……彼女の何気ない発言が彼らの耳に届いてしまったのは明らかだった。
「ちょ、狩沢さん、まずいっすよ!」
「……え。嘘、この雰囲気、私のせい? 何かBL発言しちゃってた?」
「そうじゃなくて! そんな正論吐かれたら、未だにここでお喋りしてる臨也さんと静雄さんの立場が無くなるじゃないっすか! お二人とも、あくまで表向きは殺し合ってる仲なんですから……って門田さん、何笑ってんすか!」
「いや……まさかそれを言うのが、普段好き勝手にあいつらの妄想をしている狩沢だとは……確かにあいつらも立場が無いな……。あと遊馬崎、お前もフォローできてないからな」
「え?」
耳を澄ませる動物のように体を凍り付かせている二人には、今の会話も全て聞こえていただろう。さすがに言い過ぎたかと門田がようやく現状に危機感を感じ始めたところで―――

突然、ガタンという音を立てて臨也と静雄が全く同時に立ち上がった。彼らから発散される黒いオーラに遊馬崎の体がビクリと震える。
「サイモン、ごちそうさま。金はここに置いとくからな」「ごちそうさま、サイモン。また来るね」
彼らは地を這うような低音で厨房の奥へと声を掛ける。そしてくるりと振り返ると、競い合うように二人揃って店の出口へと突進していった。
「おい!!! 帰るんだからついてくんなよノミ蟲!!!」
「はぁ!? 先に帰ろうと思ったのは俺の方だし!!!」
「違ぇよ俺だよ!!! 近寄るな鬱陶しい!!! 大体手前は昔からなぁ……」

肩を押し合うようにして店から飛び出して行った彼らの声が遠ざかっていく。それと比例して、張り詰めていた店内の空気は徐々に緩んでいった。
「―――まったく、あいつらもいい加減素直になればいいものを……」
「……ねぇねぇ! 要するに話をまとめると、あの二人はやっぱり天敵同士じゃなくて恋人同士ってこと!?」
「じゃなくて、やっぱりただの天敵同士っすよ! 今の二人の殺気、ちゃんと見てました!? 静雄さんがキレてたら確実に俺たち死んでましたよ!」
この後も暫し、座敷のテーブルでは戦争コンビの話題が続いた。もちろん、数ヶ月後に一騒動を起こして臨也が新宿へ引っ越すことなどこの時の彼らには知る由も無かったのだが……

そう、これは、臨也がまだ池袋に居た頃の話。

臨也と静雄がまだ、天敵同士だった頃の、話。
作品名:old days 作家名:あずき