枕元の逢瀬
店内には店主と思しき者が一人、ぽつねんとカウンターに居る。他に人影は見受けられない。
いらっしゃいませ、ご来店ありがとうございますと形ばかりの丁寧な挨拶が空の店内の隅々まで響く。照明がないのに、口元に笑みが受べられているのが当然の事象のように理解する。
正真正銘の、隠れた店そのもの、という感想を胸に一つ抱く。
戸惑いは何処かに行ってしまったきり、戻って来てはいない。
そう、これは夢の圏内のことであるから。その由縁のみで全てを包み込む。
「そんなにも過激で躍動感溢れる夢に好かれているのに、わざわざ退屈極まりない悪夢を押し売りしてあげます。せいぜい悪夢を商売品として取り扱っている者らしく、ね」
「随分温い商売ですね。失礼を承知して発言しますが、儲かっているのですか?」
「ぼちぼちですね」
偶にそういう賑わしいものがお気に入りのお得意様が居るんですと、貼り付けられた営業スマイルと一緒に付け加えられる。
夢現の中では、真偽を確かめる手立ても行使出来ないではないのが不利である。相手の手に主導権があるのなら尚、本心の所在が、証明の方法が不明なのだろう。相当あるまじきことであるが仕方がない。己の分を超えてしまっている。
濃く暗い店内の空間であったから顔を覚えられていないだが、その寝癖くらいは見覚えがあった。
あの子供は平凡な高校生らしからぬ要素を、一体いくつ宿しているのやら。
契約を結べたのなら、さぞ面白い取引相手になりそうですねと一人夜を更に黒々しく濁す。