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死人に口なし

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混線@セルティ


 セルティは困惑していた。臨也に強引に頼まれて、指定された倉庫街に来たところまでは良かった。夜に溶け込む黒いビニール製のバッグを前に、セルティは思案する。約束の場所にぽつんと転がされていたバッグは、大きさといい、形といい、どうも嫌なものを連想させた。セルティは少しの躊躇を経て、自分の予想を覆すため、そっと荷物を持ち上げてみた。ずっしりとした重みが腕にかかる。
 結果、セルティは無い首をがっくり落とした。バッグは、人の形にぐにゃりと歪んだ。

 裏社会の仕事を請け負うことが多いため、こういうことは初めてではない。しかし、セルティは異種族だからといって、冷酷になりきれる性格でもなかった。気分が落ち込むのはどうしようもない。仕事の依頼人を恨みながら、嫌々荷物を影で作ったサイドカーに乗せる。若干血の匂いがする気がしたが、無理やり意識から閉め出して愛馬に跨った。シューターも分かっているのか、嘶きがいつもより頼りない。

 ――――――それにしても、妙な仕事だ。
 人通りの無い夜道を我が物顔で飛ばしながら、セルティは思った。それなりに重要な荷物だと思うのだが、受け取る時も渡す時も、誰とも会わない段取りになっていた。受け取りはまだ分かるとしても、引渡しも置いてくるだけ、というのが気にかかる。運び屋を介するなら受け取り手がいる可能性が高いが、直接渡さなければ、無関係な人間が見つけてしまうかもしれない。
 セルティの胸に、嫌な想像が過ぎった。折原臨也が、自分を嵌めようとしている可能性。臨也の人間性から察するに、ありえない話ではない。臨也は、素顔を晒さないセルティに不信感を持っている。受け渡し場所に警察か何かが待ち構えているということも、十分あり得る話だ。

 ぞっとしない想像を胸に、セルティは引渡し先の公園に乗り付けた。誰も居ないことを念入りに確認して、指定されたベンチにバッグを下ろす。念の為もう一度辺りを見渡したが、人の気配はない。
 ――――――考え過ぎだったか。一応新羅の友達だし、あまり疑ったりするのは良くないな。
 セルティは街灯に照らされるバッグを振り返りながら、夜の公園を後にした。仕事はこれで完了だ。あとは真っ直ぐ帰ればいい、はずだった。

 セルティは好奇心にかられて、辺りを一回りしてもう一度公園に寄ってみた。すると、バッグは既に跡形も無く消えていた。人の気配は無いように思ったが、こっそり監視していたのかもしれない。不気味な後味の悪さを覚えながら、セルティは今度こそ真っ直ぐ家に向かった。中断していたゲームの続きをするために。



『と、いうわけだ』
 セルティがそう締めくくると、何とも言えない表情で静雄と新羅が目を合わせた。
「これって多分、君が見たやつだよね? いくら東京だからって、そうホイホイ死体があるはずない」
「……だろうな」
 セルティは、意味が分からずヘルメットを揺らす。
「でもどうして、そこで臨也が出てくるかねぇ? 一体何しようとしてたんだろ」
『何の話だ?』
 セルティが疑問を掲げると、新羅が芝居染みた口振りで話しはじめた。
「昨日、静雄が臨也と追いかけっこして、何故か死体を発見しちゃったんだよ。偶然だったみたいだけどね。で、臨也が呆けてた静雄の背中を押して、静雄は死体と熱烈なハグを交わしたってわけ」
「思い出させんな」
 静雄が苦い表情で新羅の肩を押す。新羅は勢い良くソファに横倒しに倒れた。クッションに受け止められたとはいえ、新羅は衝撃に呻いた。
『それは災難だったな。大丈夫か?』
 セルティは静雄に携帯電話を差し出した。新羅が起き上がって「僕の心配もしてよ!」と騒いだが、まるっと無視した。
「ん? おぉ、ありがとな」
 心配する言葉を示したセルティに、静雄は穏やかな声で礼を言った。そんな静雄を前にしながら、セルティは胸中で考えた。
 ――――――仕事を押し付けてきたと思ったら、今度は自分が攫われたりして、本当に困った奴だ。しかし、昨日のこと、今日のことは何か関係があるのだろうか?

 セルティが思案に暮れる中、突然、携帯の着信音が響いた。静雄の携帯だ。
 静雄は携帯の画面を見るが、見覚えの無い番号が並んでいた。静雄が新羅とセルティを伺うと、セルティが出るように促した。着信ボタンを押す。
『平和島、静雄君?』
「・・・誰だ?」
 携帯から聞き覚えの無い声がして、静雄は首を傾げた。セルティは普通より聴覚がいいので、本人の意思に関係無く会話が聞こえている状態だった。
『折原臨也君、知ってるよねー?』
 聞こえてきた名詞に、静雄は携帯を持つ手に力を込めた。プラスチックが軋む嫌な音がする。「ちょ、ケータイ、ケータイ!」新羅が慌てて静雄に訴えた。
『今臨也君を誘拐しちゃったんだけど、ちょっと今から来てくれるー?』
 セルティが、静雄の携帯を掠め取った。驚く静雄に無断で、音量を最大に上げる。
『ちなみに、警察に言ったりしたらオトモダチは帰ってきませーん』
 部屋に男の声が響く。状況を見守っていた新羅も、目を丸くして携帯に近付いた。
『場所はメールで送っとくんで、――――「来るな!」……おい!』
 三人が注視する携帯から、聞き覚えのある声が響いた。
『「――――来るな! 死ね!」……っ…………というわけでー、よろしくね、静雄君』
 通話は一方的に切れた。臨也の声だった。

作品名:死人に口なし 作家名:窓子