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ただの夢

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赤と黒の世界の中心にいる自分。
 その足元には人形のように横たわっている全く似ていない双子の弟であるマーフィーの姿。
 雷鳴が鳴り響き、血に濡れたマーフィーが虚ろな目で見上げているのをじっと見下ろしている自分自身をどこか遠くから見ている。
「ベタな映画だ」
 過去に見た映画作品の色々な物が雑に混じっているとしか思えないのに、何故か言いようのない不安に駆られてしまいながらマーフィーを見下ろしている自分自身の顔を見れば、その顔は恍惚に歪み、両手はべとりと血に濡れていた。



「マ、」
 思わず声を上げ、その声に夢から覚める形でコナーは勢い良く目を開けると、早鐘を打つ心臓を感じ、浅い息を繰り返す。
「……夢」
 ぽつりと自然に言葉が零れ、コナーはぼんやりと天井を見上げる。
 背中にじとりと滲む汗と落ち着かない心臓の音を聞きながら、コナーはゆっくりと起き上がると疑心暗鬼になりながら薄暗い室内を見渡し、隣のベッドに眠るマーフィーへと視線を向けた。
 じっと睨むように見つめていれば聞こえる規則正しい寝息が耳に届き、わずかにその体が上下しているのが見え、その姿に漸くコナーは小さく安堵の溜息を吐き、肩を落とす。
「あれは、夢、だ」
 言い聞かすように繰り返すが、心のどこかで鳴り止まない警鐘が聞こえ、コナーは溢れ出る感情に蓋をするようにぎゅっと瞳を閉じた。
「これが、現実」
 一語一語をくっきりと切るように紡ぎ、自分自身に痛みを与えるようにきつく拳を握れば、掌に爪が食い込む感覚がじわりと体中に広がっていく。
 血が出そうになるぎりぎりの所でぱっと指を開放し、再度確認するようにマーフィーのベッドへと視線を向ければ、先程と全く変わらない姿があり、コナーはへにゃりと力の抜けた笑みを口元に浮かべた。 



「…、コナー、コナー!」
 繰り返し強く名前を呼ばれ、びくりと動揺を隠し切れずに肩を上げれば、大丈夫か、と心配そうに顔を覗き込んでいるマーフィーの顔が目の前にあり、コナーは目を見開きながらもすっとマーフィーから距離を取る形で後退りながら緩く首を横に振り、大丈夫、と小さく答えるがマーフィーは信用出来ないと全身から訴えるようにじっとコナーを見つめており、コナーはやがて根負けした形で「ごめん」とぽつりと紡いだ。
「……何が」
 謝られる理由が判らない、ときつい視線と共に吐き捨てたマーフィーにコナーは言葉に迷い黙り込んでしまえば、マーフィーは半ば睨むような視線を向けながら口を開く。
「お前最近ちょっとおかしいぞ」
 心配されているのだとすぐに理解出来るが、訝しげな表情のマーフィーにどう説明すればいいのかも判らずに視線さえも逸らしてしまえば、はぁ、と大袈裟な程の溜息と共にマーフィーは口汚く悪態を吐くと、ぐい、とコナーの胸倉を掴み上げ、無理やりに視線を合わせさせた。
「今更こんな事したくない、とか言い出すんじゃないんだろうな」
「――っ、違う、そうじゃない」
 息苦しさを覚えながらも否定するが、マーフィーは納得していないようにコナーを睨み付けたままその手を離そうとしない。
「マーフ、」
 苦しい、と訴えれば、マーフィーは漸く思い出したように喉元に触れていた指を離し、視線を逸らした。
「……今更後戻りなんて出来ないんだからな」
「あぁ、判ってる」
 どこか拗ねたようにも聞こえる口調に微笑ましいものさえ覚えながら頷けば、「ほら!」とマーフィーは暗い会話を切り上げようと努めて明るい声を上げた。
「判ってるんだったらこんなとこでボーっとしてないでとっととずらかろうぜ」
 依頼主側がきちんと手配をしていると言ってもいつ無関係な第三者がやってくるか判らない。
 早く、とコナーを急かし手を出すマーフィーに「あぁ」と差し出される手の意味に数泊置いて気付き、コナーは持っていたペニー硬貨をマーフィーへと手渡す。
「そうだな」
 ほら、と数枚のペニー硬貨を渡せば、くるりと踵を返し、マーフィーは部屋の隅に転がる死体へと向かう。
 足元に転がる死体と夢の中で見るマーフィーの姿がリンクしたのだと口にすればマーフィーはどう思うのかと考えてしまう。
 現実と夢とが混ざっていく感覚。
 トレードマークであるペニー硬貨を置いていくマーフィーに遅れながらも同じ作業をしていけば、最後に両目の貫通した死体が残る。
 祈りの言葉は頭で何も考えずとも自然と唱える事が出来、すらすらといつもと同じように祈りを捧げ、その日の仕事が終わった。
 

「コナー!」
 怒りの滲む声で名前を呼ばれはっと顔を上げれば、ぼんやりとしながらも足だけは動いていたのか既にホテルの外に出ており、「聞いてた?」と再確認するマーフィーにコナーはぐ、と言葉を詰まらせる。
「……聞いてなかった」
 正直に告白すれば、やっぱりな、とマーフィーは呆れ顔で肩を落とし、「迎えの車は向こうだって」とぐい、とコナーの視線を促す。
 あっち、とマーフィーの指した方向へと視線を向ければ見覚えのある車が止まっており、あぁ、と頷けば、マーフィーは既に一人先に歩き出しており、コナーは急いでマーフィーを追い、その横に並ぶ。
 暫くは無言のまま歩いていれば、マーフィーは横にいるコナーを確認し、唇を尖らせた。
「またぼーっとしてたな」
「悪い…」
 うまい言い訳も思いつかずに素直に謝れば、マーフィーはぶすりと表情を曇らせながらも半ば諦めたように速度を速めコナーと距離を取るように少し先を歩く。
「マーフィー…」
 すたすたと先を歩き出したマーフィーに焦りを覚え思わず名前を呼ぶが、聞こえているだろうに振り返ろうとしないマーフィーにコナーは小さく溜息を吐き、立ち止まるとぽつりと紡ぐ。
「俺が……、俺が狂ったらお前が俺を殺してくれるか?」
 マーフィーの耳に届いて欲しいのか欲しくないのか。
 自分でも自分の心が判らぬ声量で紡げば、足音がぴたりと止まる。
「コナー…?」
 訝しげな表情と共にゆっくりと振り返ったマーフィーにコナーはにこりと笑みを浮かべながら顔を上げ、続けた。
「隠し事をしているつもりはないんだけどな」
 言い訳じみていると思いながらもコナーは話を切るように一つ溜息を吐くと、僅かに視線を落とし、胸の底に沈ませていた漠然とした苦痛をゆっくりと吐露していく。
「最近、何か変な感じがするんだ」
「変…?」
「俺が俺でなくなるような」
 うまく言葉で説明が出来ず、救いを求めるようにマーフィーを見れば、その瞳には怒りとも悲しみとも判別出来ない色が浮かんでおり、コナーは息苦しさを覚えながらも必死に言葉を紡いでいく。
「最近、ずっと変な夢ばっかり見るんだ…」
「どんな」
 素っ気無いようにも感じる短い声。
 けれどその表情は決して突き放している訳ではなく、哀憐さえも浮かんでいて。
「……お前が死ぬ夢」
 じっとマーフィーの瞳を見つめながら告げれば、そんなの、とマーフィーは憎悪を吐き出すように声を震わせて続けた。
「そんなの、俺だってあんたが死ぬ夢ぐらい見る」
 お互い様だと一蹴し、再度コナーへと背中を見せ車へと足早に向かうマーフィーに取り残される形で、コナーは立ち竦みじっと地面へと視線を落とす。
「そっか、そうだよな…」
作品名:ただの夢 作家名:ナカハラ