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(インテ新刊サンプル)彼らが彼らを見つけた日

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私邸のリビングに敷いたラグの上で片膝を立てて、イタリア語で書かれた雑誌を捲っていた綱吉が、あ、と声を漏らして手を止める。
「───み、見てください恭弥さん、これ!」
 真後ろにあるソファにこてんと頭を置いて、その上でだらりと横たわって新聞を読んでいる雲雀に声をかけた。
「なに?」
「対談記事です。日本人との」
「その対談がどうしたの」
 どこかあわあわした様子の綱吉に、雲雀は新聞に目を落としたまま素っ気なく返答する。
「相手が日本人でも、別に珍しくないでしょ。それ、世界中の経済情報扱ってる雑誌なんだから」
「でもこの記事の人、経済評論家とかじゃなくて、マジシャンなんです」
「…マジシャン?」
 意外な職業を耳にして、興味のなさそうだった雲雀も視線を上げる。
 ばさりと新聞を折り畳んで少し体の向きを変え、片肘で体重を支えるようにしながら、綱吉の肩に顎を載せて記事をのぞき込む。
「誰なの」
「ええと、『カイト・クロバ』っていう名前です。聞いたことありますか?」
「カイト・クロバ…ああ、黒羽快斗ね。父親も世界的に有名なマジシャンだったとかいう」
「へえ、そうなんですか」
 記事には、少し跳ねて癖のある黒髪と藍色の瞳を持つ青年の写真と、対談形式のインタビューが四ページにわたって掲載されていた。
 老舗の経済雑誌が畑違いの人間をここまで大きく取り上げているのは、少し珍しいかもしれない。よほど面白い内容でも聞けたのだろうか。
「俗に言う二世マジシャンだけど、技術は父親に引けを取らないって。何年か前には、国際大会で賞も取ってるらしいよ」
「よく知ってますねぇ」
「賞を取った頃、日本でも話題になってたからね。…見てごらん、ここにも書いてある」
「え?…あ、ほんとだ」
 つい、と雲雀に指された部分を読んで、そっか、と綱吉が頷く。
「…そういえば俺、イタリアに来てからずっと、日本のことって政治経済の情報くらいしかまともに見てなかったからなぁ。今あっちで何が流行ってるのかどうかも、全然知らないや」
 少し寂しそうに笑う綱吉のこめかみに、雲雀は猫のように自分の頭をすりつけた。
「流行を知らなくたって、生活に支障はないよ」
「だけど、知ってたって損はないでしょう?」
「雑学として憶えておくならともかく、日本の流行がそのままこっちで通用するとは限らないだろ。そういう場合はね、無理に知ろうとしなくても良いってことなんだよ」
 くしゃくしゃと金茶色の髪をかき混ぜられて、宥める強さで頭を撫でられる。
「まして、綱吉はずっとイタリアで生活してるんだから、知らないことを咎める人間なんて居やしないさ」
「恭弥さん…」
 穏やかな声音で言われて、綱吉はふわりと胸が温かくなる。
「どうしても知りたいなら、あっちでの仕事の時に雑誌でも取り寄せて、こっちに送ってあげる」
「えへへ、ありがとうございます」
 甘やかされているのを感じて、お礼を言った綱吉はお返しに雲雀の頭に頭をすりつけ返した。
 ごろごろと懐くような仕草に、雲雀も小さく笑う。





「その続き、僕にも見せて」
「はい」
 朝刊をテーブルの上に置いた雲雀が体を起こし、綱吉の腕を引いて自分の隣へ座るように促す。
 腰を上げてとすんとソファに座った綱吉は、自分の膝の上に雑誌を載せてページを捲った。
「ヨーロッパでの公演ツアーが企画されてるんですね、黒羽快斗って。宣伝も兼ねて、インタビューの仕事が入ったのかな」
 記された内容には、イギリスやドイツ、フランスをはじめとして、イタリアも公演予定に入っている。
 残念なことに、綱吉が軽く足を伸ばして行けるほど近場での公演はないようなのだが。
「それもあるかもしれないけど、黒羽快斗は相当な情報通みたいだよ。マジックのことから政治経済まで、どの話を振られても彼なりの解釈を交えてきちんと回答されてる。頭の回転も良いようだね」
 綱吉より先に記事を読み終えた雲雀が、どこか感心したような様子で言う。
「知識を取り込もうとする姿勢は柔軟だけど、そこから己の解釈を出すときには一本筋が通ってる。こういう人間が身近にいると、仕事がしやすいだろうね」
「そうですね」
 草壁さんみたいだなぁ、と綱吉は密かに思う。
「だからかな、彼、工藤新一との交流が深いらしいよ。記事の最後に書いてあった」
「工藤新一って…あの元高校生探偵の?」
 綱吉が慌てて記事を読み進めて、該当部分を見て目を丸くする。
「あの人、すごく有名だったのに、一時期行方不明になってたじゃないですか。当時は結構話題になってて」
「一年くらいしてひょっこり戻ってきたらしいよ。あれ以来、メディアにはほとんど顔出ししなくなったけど、黒羽快斗と世界を回ったりしながら、探偵は今も続けてるみたい」
「そうなんだ…あの頃すごく頭の良い小学生が現れて、いろんな事件を解決してたっていうのは憶えてたんだけどな……って、あれ?」
 自分の言動に、綱吉がはたと我に返った。
「恭弥さんさっき、工藤新一が戻ってきたのって、行方不明から一年後くらいって言ってましたよね?」
「言ったけど、それが…」
 どうしたの、と言いかけた雲雀は、しきりに首をかしげる綱吉に訝しげな視線を向ける。
「なんでだろ…いま俺の中で、工藤新一とその小学生が、ぴったり一致したんです」