【ヘタリア】出会い(アルナタ)
ナターリヤ・アルロフスカヤ
イヴァンに二人の姉妹がいたことを知ったのは、つい先日のことだった。姉の方はイヴァンから離れ気味で、こちらに寄ってきているから、問題ではないが、妹の方はイヴァンに心酔していると聞いて、厄介だと思った。イヴァンと敵対しているアルにとって、イヴァンに心酔している妹がいるということは面白くない。
お金をちらつかせて、こちらに寝返らせるか、さもなくば、排除するか。処遇を決めかねて、とりあえず観察してみることにした。
そして、観察を始めて半日と経たない内に、自分の間違いに気づかされた。
彼女は、自分にとってあまりにも都合が良すぎる存在だった。
彼女はイヴァンのところに告白しに行っては、怯えられて、追い払われて、しかしそれでも落ち込んだ素振りを見せずに再アタックしては玉砕していた。あれほど好きなのに空回って足を引っ張っているというのは珍しい。おもしろくて、いつの間にか何日も追いかけていた。飽きるのが早い自分にとってありえないことだ。最初は任務で、そのうち、暇つぶしが見つかったと嬉しくなって、任務に関係なく観察し続けた。
そして、見ていられなくなった。
「君はいつまで無駄なことをしているんだい?」
と、イヴァンの家を遠くから観察している彼女に、アルは初めて物陰から出て横から話しかけた。
「ああ、ストーカー野郎か」
彼女はこちらを一瞥してからすぐ家のほうに視線を戻し、ぶっきらぼうに言った。
「わお。君には言われたくないセリフナンバーワンだよ!」
慎重に。慎重に。近づいていく。
「気づいていたなら、言ってくれてもいいじゃないか」
「兄さん以外に興味はない」
速攻で返された。おもしろい。いい加減大国だからと顔色を窺う奴らに飽き飽きしていたところだった。
「その兄さんは君に興味がないみたいに見えるけど?」
彼女の視線が一瞬で自分へと向けられた。きつく睨まれる。ものすごい形相だ。
「なんだ。自分で分かっているんじゃないか」
彼女は答えない。あともう少し。また一歩距離を縮める。
「いい加減諦めたらどうだい?望みがないことは明らかだよ」
また一歩。彼女は睨んだまま答えない。
「彼は君を見ていない」
また一歩。彼女のあごに手をかける。
「彼はお姉さんのことばかり見ている」
彼女の瞳孔の中の自分と目が合った。
「彼は」
鋭敏な刃が空気を切る音がした。一瞬で二歩分、後ずさる。刃物がアルの首があった部分を横切り、彼女のすらりとした金髪がその後を追った。視界が金色に染まる。
ぞくっとした。美しい。まるで手負いの獣だ。
表情を和らげて、両手を挙げる。降参のポーズ。
「待った待った。俺は君をいじめに来たんでもなければ、争いに来たんでもないんだ」
「失せろ」
空気を吸い込む。
「友達にならないか?」
彼女の瞳孔が開く。周りの空気が固まった。
「・・・なんの冗談だ」
絞り出すような彼女の声。
「そのまんまの意味さ。戦友と置き換えてもいい。君は彼が好きだ。俺は彼と敵対することを避けたい。これ以上兵器にお金をかけられないしね。だから、俺は君の恋に協力する。彼に恋と平和の良さを分からせてあげようよ」
「私とくっつけて、兄さんの動きを止めたいということか」
アルは答えなかった。沈黙は最大の肯定だ。
彼女が答えを出すのに、そう時間はかからなかった。
「却下だ。私が兄さんの邪魔になるようなことをすると思うか?」
「もう十分していると思うけどね」
小刀を力いっぱいぶん投げられた。冗談は通じなかったらしい。
「残念だ。みんなが平和になる魅力的な提案だと思ったんだけど」
茶目っ気たっぷりに肩をすくめると、
「そんな薄っぺらい平和がか?」
と、にべもなく返された。
違いない。今日はひくか。
「今日のところはひきあげるよ。考えが変わったら、いつでも俺のところに連絡してくれ」
名刺を差し出すと、案の定突っ返された。
「いらん。お前はどうせまた私のところに来るんだろう?」
思わずきょとんとしてしまった。彼女はちょっと語弊があったことに気づいたのか、慌てて頬を赤く染めて言った。
「誤解するな!別に来てほしいわけじゃない!!」
思わず吹き出して笑ってしまった。
「分かってるよ」
「なんで笑うんだ!早く帰れ!!!」
「はいはい」
「うざい!」
小刀がもう一本飛んできた。あとで、回収することにしよう。彼女の突っ込み小刀2本ゲット。
「じゃあ期待通りまた来るよ!」
と手を大きく振ると、小刀がまた飛んできた。しばらく小刀に困ることはなさそうだ。
作品名:【ヘタリア】出会い(アルナタ) 作家名:ツキミドリ