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だからどうするってわけでもないけど!

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クラウドは非常に苛々していた。
騒がしい酒場の客たちの下品な笑い声も、アイシクル産の(ちなみにザックスの遠征の土産だったりする)めったなことじゃ手に入らない希少な酒の味すらわからないくらいに、非常に非常に苛々していた。原因は酒の送り主、眼の前で意気揚々と酒をあおるソルジャークラス1stの、今出世街道まっしぐらの男(全く腹立たしいことに)ザックスである。
しがない一般兵でしかないクラウドとザックスとの出会いというものはすごく偶然的なものであった。たまたま同じ任務についている際、事故に巻き込まれて意気投合したとこに始まる。気さくな人柄に、お世辞にも人づきあいがうまいとも、愛想がいいとも言えないクラウドが心を開くのは早かった。
確かに気が合うと言うのもあったのかもしれない。今ではこうして、たびたび酒を飲んだり買い物をしたり、時にはけんかしたりとそれなりに良い友人関係を育んでいる始末だ。出会いとはわかんないもんだな、と、同室のジャンに言われたが、確かになぁとクラウドも思っている。思っているが。

「それで、受付のアンがさぁ」

ザックスは女好きだ。クラウドだって女の子に興味がないわけではない。故郷の幼馴染にはそれなりに甘酸っぱい感情を抱いていたし、それをいまさら振り返ってみて、あれが初恋だったのかなぁと思うこともある。けれども、不器用で無愛想なことも手伝って、そんな話はミッドガルに訪れてからは一度もないし、何より、女の子付き合うよりも、いつか自分も訓練を積んでソルジャーになるんだという、子供じみた夢のほうがクラウドにとって大きかったのである。
それであるから、ザックスという存在は羨望の対象であり、尊敬の対象であり、近しい友人であるから余計に妬ましい存在だった。こんな風に、いつか自分もなれるだろうかと、眼で追い始めたのがあるいはきっかけだった。
(そうだ、それがいけなかった)
クラウドはザックスに隠していることが一つだけある。
隠し事が下手なせいで、今までの経験上長く続いたことはないが、これだけは何に変えても隠さねばならなかった。
クラウドは、意気揚々と捲くし立てるザックスの言葉に適当に相槌を打ちながらこっそり溜め息を吐く。こうして、いつまで自分は溜息を吐いていなければならないんだろうかと、大型犬を思わせる人懐っこさで笑うザックスを眺めながら、クラウドは酒をあおった。

「アイシクルから帰ってくるとき、よくひっぱたかれなかったよな。」

クラウドが半分呆けたような口調で言うので、ザックスはからからと笑った。

「大丈夫大丈夫。」
「何が大丈夫なんだか。」

まただよ、とクラウドは溜息を吐く。クラウドのため息の理由を、残念なことにザックスはちゃんと理解していない。
遠征に行けばそこで女をとっかえひっかえ、遊ばれている女も遊ばれていると理解したうえでの行為なのか、今まで修羅場になりかけたことがあってもうまく切り抜けてきたとザックスは自慢げに言う。それ、全く自慢にならない、というクラウドの言葉が結局ザックスに届かないのと同じ原理だ。

「いい加減一人に絞ったらどうだよ。」
「何言ってんだ。据え膳食わぬは男のはじだろ。」
「あっそ。」

これだ。何が据え膳食わぬは男の恥だ。
クラウドを苛々としながらまた酒をあおった。女好きなのは分かる、それはどうだっていい。男の甲斐性だとかザックスなりの持論も聞きあきたところだ。
クラウドをいらつかせるのは、ザックスが女性に対して誠実でないからという理由からではない。第一ザックスは根本的に誠実な男だ。不誠実に見せかけておいて、結局のところ締めるべきところはしっかりと締めているから、問題も起きない。いい意味でも悪い意味でも、ザックスは要領がいいのだ。

「それでさ、」
「ザックス。」

受け付けのアンがかわいらしくやきもちを妬いたとか、アイシクルのジェーンがその地を去るとき泣いていただとか、蜂蜜の館のリリーがさみしかったのと甘えてきたのだとか(第一蜂蜜の館の女の人はそれが仕事だ)、そんなことはどうでもいい、聞きあきたんだとクラウドは内心だけで毒づいた。毒づいて言葉を遮り、どんと、ジョッキを古びたテーブルに置いた。

「ん?」
「いつか、夜道で後ろから複数の男に殴りかかれたうえ、複数の女にめった刺しにされても、俺泣いてやらないからな。」
「何だ心配してくれてんのか?」
「違う!!」

クラウドは荒々しく机を叩き、しかしそんなのもうるさい酒場の雰囲気にのまれてしまうから、なんとなく釈然としなくて座りなおした。どすの効いた目つきでザックスをにらみながら、お前なんかさっさと夜道で刺されてしまえ、と呟き置いたジョッキに口をつける。
ザックスはそんな友人を、やっぱり優しく笑い見つめながら酒を飲んだ。

「お前も、早く恋人見つけろよ。」

クラウドの葛藤も知らず、兄のような面持でそんなことを言うザックスに、手前ぇだけには言われたくねぇと口汚く憤慨する傍ら、ひっそりと唇をかみしめる。
(俺、どうしてこんなやつに惚れちゃったんだろう)
と、誰にも言うことなく途方に暮れるクラウドだった。