注意せよ、
彼の言葉は、呼吸となんら変わりなく。
「好きやで。」
故に本気なのか冗談なのかも分からず。
いつもと変わらない表情で、彼はその言葉を紡ぐ。
「若松、好きやで。」
この言葉を、何度聴いただろうか。
ささやくように、優しく。それは、とてもとても心地よくて。
―ダメだ、
―本気にするな、ダメだダメだダメだ、
本気にしたって、馬鹿を見るのはこっちなんだから。
注意せよ注意せよ注意せよ―、
こんな言葉を、何度自分に言い聞かせただろうか。
「若松、」
名を呼ばれる。振り向く。
期待してしまっている自分が、どうしようもなく嫌だ。
そのまま抱きつかれて、耳元でささやかれるいつもの、言葉。
当たり前のようにその言葉を欲している自分が、嫌で嫌で。
それでも、この心地よさからは逃れられない。
―本気にするな期待するな注意せよ注意せよ注意せよ―、
頭の中で叫びながら、小さく、本当に小さく。
「俺も、です、」
独り言のようにつぶやかれた言葉は、紛れもない本心で。
その言葉を聞き、彼は嗤った。
―シャクナゲ― 注意せよ