七夕祭り【キャン甘2】
目を輝かせ浴衣を着たカービィが振り返る。夜であっても電飾のおかげで暗さは感じなかった。
「わかってる。祭が終わるまで付き合うといっているだろう。少しは落ち着いたらどうだ。」
ため息をつきながらマントと肩当てが外され、ジンベイを着て、黄色いネズミのお面をつけたメタナイトは言った。
この格好の訳は少し前にさかのぼる。
『ねぇ、メタ』
『今日ねお祭りだって知ってる?』
カービィはメタナイトにそう問いかけた。
『ああ、デデデ大王の思い付きだろう? ……それがどうした?』
『一緒に行こう!』
カービィの言葉にメタナイトはすぐには返事しなかった。
『メタ?』
恐る恐る返事を促す。
『そうだな、お前が私に勝てたら祭の間だけ付き合ってやる。』
そしてその結果は……。
「大体、わざわざ仮面やマントまで奪う必要なんかないだろう。」
「だって、そのままの格好だったら逃げちゃうでしょ?」
後ろでつぶやくメタナイトに振り向くとそういった。
「私は約束は守る。」
心外だ。といわんばかりの様子だが格好が格好だけにしまらない。
ちなみに衣装はデデデが盛り上げるため祭りの参加者全員に配布しているもので、お面のほうはカービィが屋台で買ってきたものである。
ちなみに奪われた装飾品は、彼の口の中、である。
「でも、不安だったんだよ。」
また正面を向きなおすと小さくつぶやいた。雑踏の中できっと声はかき消され届かなかったのだろう。メタナイトは何の言葉もかけなかった。
不本意であろう彼を縛っているというかすかな罪悪感はカービィにもあるのだ。彼から提示されたことではあるのだが、勝者の優位性に立つとなんだか後味の悪さが残っている。
それを無理に忘れようとあっちこっちメタナイトをひっぱりまわし、夢中になることで忘れようとしているのだ。
そのとき手を握られる感触がした。
「メタ……?」
「はぐれたら大変だからな。祭の間『付き合って』やるんだ。これぐらい普当然だろう。」
暖かい手の感触が不安をぬぐってゆく。メタナイトの顔は見えないけれど、歩調を緩めゆっくりと二人はひとごみの中を歩いて行った。
「少し座るか?」
釣ったヨーヨーやら、射的やくじの景品でいっぱいいっぱいのカービィの姿にメタナイトはそう声をかけた。
「飲み物を買ってくるからここで待っていなさい。」
と言ってベンチに座らせるとひとの波の間に消えていった。
しばらく水の入ったヨーヨーをちゃぷちゃぷさせたりしながら待っていたがなかなか帰ってこない。
おさまっていた不安がまたよぎる。
……やっぱりおいてかれちゃったのかなぁ。
不意にほっぺに冷たい感触がした。
「ひゃぁ。」
「なんだその声は。」
「め、メタ!」
「遅くなってすまないな。ラムネでいいか。」
「うん。」
そう笑顔でうなずくとパコンとビー玉を落とした。隣ではあふれてくるラムネがこぼれないように、急いでメタナイトが口元だけお面をずらしピンに口をつけている。
カービィはこぼれたラムネと冷えている証の水滴に手を濡らしながら一気に飲み干した。
「あ、花火!」
ひゅるるるると打ちあがる音がした。
「もうすぐ祭も終わりだな。」
同じように空を見上げるメタナイトがぽつりと言った。
祭が終わったらすべて終わるのだ。きれいではあるが残酷な花火をカービィはじんわりと涙が浮かぶ目で見ていた。
≪さあ特大の花火が上がります!祭のフィナーレを飾る最後の一発皆さんご注目を!≫
おそらく特設スタジオからのものだろうマイクの音声が響き渡る。
涙がこぼれおちないようにカービィはまわりのひと達と同じようにじぃっと空だけを見つめた。
ひゅるるるると花火が昇ってゆく。そして花開く直前きらびやかな電飾がすべて消えて……。
再び、明かりがともるとみな顔を見合わせ口々に花火の美しさ、演出を称賛した。
メタナイトはその輪には加わらず立ち去ろうとした。
「ま、待って!」
カービィが真っ赤な顔で追いかけた。
「何だ?」
「ささっきのあれ…。」
「祭が終わるまでは、と約束しただろう。」
用がそれだけなら帰るとでも言いたげに背を向けたまま答えた。
「あの、その……か、仮面とマント今から出すね。」
慌ててカービィが取りだそうとしたが、
「もういらん、帰れば予備があるんだ。いくつお前のせいで仮面が割れたと思ってる。」
そしてすたすたと歩いていってしまった。
それをカービィは追いかけることはしなかった。
ただ、口元を手で押さえていた。相変わらず真っ赤な顔で……。
織姫と彦星は年に一度七夕の日にまみえ、恋人の契りを交わす。
カービィはあの暗闇の中で受けた優しいキスを忘れることはないだろう。
作品名:七夕祭り【キャン甘2】 作家名:まなみ