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dogmatic【新刊サンプル】

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 一人きりでいることには慣れていた。
 それが自分の部屋でも教室でも、街の片隅でも。竜ヶ峰帝人はいつだって自分が特筆すべきもののない、大勢のなかのひとりでしかないことを知っていた。

 細い回線一本でいつでも何処でも、見知らぬ誰かと繋がっているような気がしていた。そうでなければ息も出来ないような気がするのはきっと現代人特有の病めいたものだろう。それだって別に、常日頃、携帯電話に神経をとがらせているわけでもないのだ。
 そもそも、現実レベルにおいて帝人は、賑やかな輪の中に飛び込んでいこうとする性質でもなかった。だからといって然して友人が少ないわけでも特別多いわけでもないのだけれど。中学時代から変わらない、それは癖のようなものだったのだ。クラス委員をやっているなんてのもあって委員会の用事だとか学校の行き帰りだとか、それなりに顔を合わせる生徒も、親しいクラスメイトもいるものだ。それでも元来、目立つことはあまり好きでも得意でもないからだろうか。気付けば騒がしい教室のなかでも自然と、帝人は一人でいることが多かった。
 だからといって別段、それが寂しいだとか悲しいだとか、そんな風に思うことはなかった。それは今時の若者らしいといえばそうでしかないのかもしれない。
 世界が変わっていく速度に追いつこうとするように、刻一刻と変化する情報を求めることばかりがどこか癖にも似て染みついている。ただ、それだけのことに執着していたのだ。

「ひとりで食事なんてさみしいじゃん」
 だなんて、そんなことを口にされたわけでもない。
 それでも昼休みになると待ってもいない帝人の席までやってきたり何処かへと連れ出したりと、気付けば昔からの親友―紀田正臣が顔を出すのは入学以来の常だった。
 自分よりも早く一人暮らしを始めていたのだから、彼だって一人きりでいることに慣れていただろう。それでも、教室のなかでも街でも何処にいても、正臣のことだからもしかしたら人々の中心にいたのかもしれない。どこで見かけても賑やかな輪の中で手を振っているなんてのは幼い頃から変わらない光景だった。あの頃からまるで魔法のように、拾い上げるように、帝人を見知らぬ世界に連れ出すのは正臣の得意技だったのだ。
 いつでもくだらないことばかりを重ねてくる軽やかな言葉を適当にあしらうようなそんな関係が心地好くて、まるで永遠のようにいつの間にか日常に溶け込んでいたのだと気付いたのは、彼が不意に学校からも日常からも姿を消したその少し後の話だった。
 帝人と正臣とそれから杏里と、心地好く三人で形成されていたその関係図は緩やかに姿を変えていった。巻き込まれた事件の全貌は見えないまま、それでも日常だけは緩やかに穏やかに過ぎている。
 何も言わずに出されていた退学届けも、生活感を失ったマンションも。その事自体を決別だとは思っていないと言ってみても、ただ実感として、休み時間が妙に静かに感じるようになったのばかりは確かだった。
 いつでも、鳴り響くチャイムはただの合図でしかない。
 騒がしさを増す教室の片隅で、帝人の日常は何が変わったわけでもなかった。
校内での出来事は、いつでも呆気ないくらいに変化もなく、外界から離れているものなのだ。
 それもまた表裏一体なのだと知ってはいたのだけれど。それでも。ぽっかりとできた空白を埋めるなにかを探すように視線ばかりが泳いだとしても、結局自分など世界に何の影響も与えやしないと思い知るばかりだ。
 一人でいることには慣れていた。
 それでも時折まるで空気を噛んでいるような気がしている帝人の内面のほんの僅かな部分を、きっとわかっているんだろう。別段それを帝人が望んでいないことも、誰もが代わりになる筈もないのだということだって、口に出すまでもなく伝わっているだろうに。まるで気紛れのようにそっと手が差し伸べられるようになったのは帝人がそんな沈黙にも次第に慣れた頃合いだ。
 思わず吐き出した吐息がそろそろ梅雨を運んできそうな空に紛れて、それからゆっくりと腰を上げる。チャイムの音に押されるように開け放たれた扉を潜ると、少し先のほうで可愛らしい顔をした後輩が、ひらりひらりと片手を振ってきた。


(1.つめたい指先)
作品名:dogmatic【新刊サンプル】 作家名:繭木