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ベッドの上で譜読みをしてたらドターンだとかバターンだとかそういうやたら激しい効果音と共にドアが開いて、数秒も立たないうちにドシーンってな感じで思いっきり背中にタックルかまされて、そんで言われたことがこれだった。実はタックルじゃなくて抱きついたのかもしれない。どう考えてもタックルだけど。
「……は?」
一応疑問符をつけて返してはみたけど割とどうでもいい。リンの口から出てくるのは大抵、というか99.9%突拍子も脈絡も思惑も何もないどうでもいいことだからだ。嫌ってほど学んでるから俺も話半分で済ます。あーそうですね、とか。そりゃよかったですね、とか。話半分どころじゃないかもしれない。話三分の一。十分の一かも。
「だってマイナス0.5とマイナス0.5を足してもマイナス1なんだよ」
「それ半人前ですらねえし」
「あ、ほんとだ!」
レンすごーい、なんてはしゃぎながらリンはさらにくっついてきた。そもそも、だ。俺とリンがそれぞれ0.5なのはまあいいとして、何故スタートがマイナスなのか。俺らには負の価値しかありませんかそうですか。俺が心臓の弱い子だったらどん底まで凹んで世を儚んでるぞ。
「ミクちゃんとかメイちゃんは一人で一人だから一人前だよね。いいなあすごいなあ」
心底羨ましそうに言って、すりすりと首とも肩とも言いにくい微妙な場所に頬を擦りつけてくる。生まれた順番的にカイトが出てきてもおかしくないのにすっ飛ばされたのが多少不憫だ。どうでもいいけど。
「マイナスねえ」
返事なんて期待してなかったのに、呟いてみたらリンは律儀にもうん、と相槌を返した。
「足したらマイナス1でも、かけたらプラス0.25にはなるんだから別にいいんじゃねえの」
読み終えたスコアを頭から読み返し始めたら、リンは俺の腹に回ったまんまの腕にさらに力を込めて、これ以上は無理なんじゃねえのってくらいくっついてきた。
「うん!」
適当な返事がお気に召したのはよかったけど、リンさん。鳩尾締まってます。