MintBlue
夏は過ぎ去り暑さの和らいだ空気を感じるだろう時期だが、ここのところまるで夏が戻ってきたかのような天候が続いている。空の青さも、空を映す海の青さも、すっかり夏に戻ったかのようだった。
「あちぃな……」
ばふばふと、シャツの襟をつまんで風を素肌に送ろうとしている隣の友人に、十代はあきれた視線を向けた。
「ヨハン、そのシャツやめればいいんじゃないか?」
フリルをあしらった長袖シャツを着ておいて、暑さに文句を言うなという視線。受けた側は「へ?」と間の抜けた声をあげた。
「俺のお気に入りだからな。暑かろうとこのシャツだけはやめないぜ」
ヨハンのこだわりは十代には理解しがたいものだったらしい。深く考えることを放棄して、購買から買ってきた袋を振りながら歩く。
砂浜に作られた小さなテラスは屋根もついているのでちょうど良い日除けになった。砂を噛んだ床に腰を下ろした十代は、おもむろに袋の中身の一つをヨハンに投げ渡す。突然の行為にもヨハンは驚くことなく受け取ったが、そのとたん「冷てっ!」と落としそうになったのをつかまえる。
「やっぱ冷たいなー」
汗をかいている袋を開けながら、ヨハンも十代にならって床に座り込んだ。
じっとりと袋に張り付きながらも取り出されたのは、棒アイスだった。視覚からも涼しさを主張する薄い水色の氷はソーダ味だ。
「暑いとは聞いてたけど、暑すぎだもんなぁ」
つめてっ、とこめかみに走った冷気をやりすごしながら、ヨハンは溶けかけのソーダアイスに歯をたて続ける。
「くぅ~っ、暑いから冷たいのを食べるって、いいな!」
楽しそうなヨハンに、十代はすすっていたソーダアイスから口を離して首をかしげた。
「そんなのあたりまえだろ?」
夏にアイスを食べるのは当然のことだ、と告げる十代に、ヨハンは首を振った。
「俺んとこは、夏でも寒かったんだよ。なにしろ夏でも凍ってるからな!」
「夏でも凍ってるって、涼しそうでいいな」
「良いわけないと思うぞ。十代も来てみろよ、アークティック校。寒さに慣れてない奴には相当キツイぞー。何しろ、俺がこの島の気候に慣れないからな」
溶けかけのアイスが垂れ落ちないようにずずっとすする音。
しばらく二人からそんな音が立て続けに聞こえてきて、やがて小さくなった。