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ねがうゆめ

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「ルシル」

頼りなげに呼ぶ声は、私の主の、私の主となるだろう青年の声。
いつだって迷うことのない自身に満ち溢れた仮面はそこにはない。ここにあるのは惑い迷う小さな子供。
主に相応しいとは思えないほど、弱々しい。
………化物のくせに、弱々しい。
「なんだい、シオン」
けれど、私は彼に応える。
彼が弱いばかりではないと知っているから。
彼が惑い迷うばかりではないと知っているから。
彼が、結局は正しい道を突き進むと知っているから。
「愚かな王は君が殺してくれるだろう?」
「そうだね、正しい王は私は味方するよ」
「じゃあ、もし。僕の夢が全部叶ったら」

「俺を殺してくれないか」

おや、と思う。
もし、だなんて彼には相応しくない言葉だ。
それに、夢が全部叶ったら殺してくれだなんて。
正気の沙汰ではないと思う。
けれど、その気持ちをルシルは理解してしまう。
心の奥底で、望んでいるものと似ているから。
それでも直ぐには返答しないでいると、シオンが言葉の続きを紡ぐ。
「きっと俺は幸せな夢を見るだろう。誰もが笑う、幸せな国を」
「けれど、そこに俺が居たら駄目なんだ。例え許されても、赦せない」
「だから」
だから、と言って彼は黙ってしまう。
けれど、ルシルはそれでよかった。
シオンは王に相応しいと思う。
シオンは主に相応しいと思う。
けれどそれとは別の、何かの感情でルシルはシオンを好ましいと思う。
それがなんなのか、もうわからないし、突き止めようとは思わないが。
「いいよ、シオン」
「君が全ての幸せを得る前に、僕が殺してあげよう」
好ましいと思う。甘やかしたいと思う。
だから、きっとこんな言葉を吐いたのだ。
全く、自分らしくもない。
ルシルらしくない言葉を聞いて、英雄王らしくない彼はゆっくりと、夢見るように微笑んだ。

「ありがとう」
作品名:ねがうゆめ 作家名:春雨